桜縁
容保は父親とは違い、幕府のためを思っているため、敵である長州とは手を組もうとはしないのだ。
彼が藩主であったなら、こんなことにはならなかったであろう。
「……お前達二人はどうしたいんだ?」
「……!」
それまで黙っていた土方が口を開いた。
最終的に決めるのは、近藤や皆ではなく、月や沖田本人なのだ。
「どっちにしても決めなきゃならねぇ。結婚すんのは、お前達二人だ。お前達でどうしたいか決めろ。」
「土方さん!!」
「黙ってろ……!」
二人は少し考えるが、沖田の方はもう答えが決まっているようだった。
「僕は受け入れますよ。」
「!?」
「!」
「総司……!」
「このまま黙ってなんていられませんし、向こうがそれを望むなら、受けて立ちますよ。ついでに長州の動きを探るに、いい機会にもなりますし。」
「総司!冗談言ってる場合じゃないだろ?!」
「冗談……?僕は本気だよ?」
「総司!お前自分が何言ってるのか分かってるのか……!?」
「見知らぬ女を嫁にする気か!?」
口々に反発の声が飛び交う中、近藤が沖田を見据える。
「総司……。」
「先に僕らを侮辱してきたのは向こうなんです。なら、こっちだって向こうを利用したらいけない理由なんてないし、むしろ好都合だと思っています。この結婚を利用して、長州を倒す手がかりを探ってきます。」
「そうか……、わかった…。」
沖田がそう決めたのなら、反発する理由もなくなる。
局長の近藤が許可を出した。
だが、浪士組としては有り難いものだが、それだけ沖田に危険を背負わせることになるのだ。
近藤はそれが心配なのか、憂鬱な顔をしていた。
それに気づいた沖田が口を開いた。
「大丈夫ですよ 近藤さん。僕は必ずここへ戻って来ますから、そんな顔をしないで下さい!」
いつものようににこりと笑う沖田。
そうまでされては、近藤も俯くわけにはいかず、沖田に微笑み返しす。
「そうか…。」
「はい!」
こうして沖田が長州へ行くことが決まる。後は、月だけだ。
「お前はどうする?」
「……。」
皆の視線が月に集まる。
「お前はここの隊士じゃねぇし、嫌なら逃げてもかまわないぞ?」
月は小姓という立場ゆえ、浪士組としての責任がない。だから、逃げると言っても誰も文句は言われない。