桜縁
第三章
ーー数日後。
予定より早くに会津藩邸に使節団が到着した。
先に到着したのは、沖田の嫁となる高杉の娘【蛍】であった。そして、月が暗殺しかけた娘でもある。
その知らせが屯所にも届き、婚礼の準備が行われる。
月は準備しているだろう沖田の部屋へと向かう。
あれから、沖田とは話していない。こんなことになってしまって、何を話していいのか分からなかったのだ。
沖田の部屋の前に立つ。すると、それに反応するように障子が開き、沖田が顔を出した。
「お、沖田さん……!」
「何してるの?こんなところで。」
「い、いえ……その、婚礼の準備を手伝うように言われたので……。」
「ふーん……。」
二人の間に微妙な空気が流れる。
「なら、中に入りなよ。」
「はい、お邪魔します。」
沖田に招かれ、部屋へと入る月。パタリと障子が閉まる。
「で、何から手伝ってくれるの?」
辺りを見回せば、たくさんの物が置かれていたが、なぜがまだ手付かずのままだった。
それによく見てみれば、沖田は普段通りの着物を着ていて、準備していた様子はない。
「沖田さん………、今まで何をやってたんですか?」
「何もしてないよ。だって、着物とか……これなんだか窮屈なんだもん……。それにこの方が動きやすいしね。」
着物をとって見せる沖田だが、ぎこちないようだ。
「そうですか……、なら、私が着付けをしますので、沖田さんはそれを脱いで下さい。」
そう指示をすると、月は沢山の物の中から、沖田の着物を取り出す。どれも高級なものばかりで、蛍との各の違いを見せつけられるような気分だった。
沖田は後ろで、自分の着物を脱ぎ始める。
黙々と下準備をしていく月。
沖田は脱ぐのをやめ、向けられた月の背を見た。
その姿がなぜか、とても愛おしく思えてくる。
思えば月とは色んなことがあり、沢山の彼女の表情を見てきた。悲しい顔、怒った顔、笑った顔……、すべてが愛しい時間に変わっていったのだ。
沖田はそっと月を抱きしめた。
準備をしていた月の手が止まる。
「!」
「……………。」
「……沖田さん?」
「お願い……、少しの間でいいから、このままでいさせて……。」
沖田が月の耳元で囁く。肩に回された腕にそっと手をやる月。
互いの想いが重なり合う。