桜縁
月は身なりを整えていた。
綺麗な青色をした立派な着物である。
それらに袖を通し帯を結ぶ。
一通りの身仕度が整い、手鏡を見ておかしな所がないかを確かめる。
ふと、沖田の姿が思いに浮かぶ。
身体を包み込んでくれる優しい腕……。
確かにあった温もり……。
それらの想いを封じるように、月は手鏡の蓋を閉じた。
再び広間へ行くと、賑やかな声が聞こえてくる。
月は部屋の前に座った。
「近藤さん 月です。」
「入りなさい。」
障子を開け中へと入ると、いつも上座に座っていた近藤達が、下座に座っていた。
そして、上座に座っていたのは、これから月の夫となる長州の者であった。
月は近藤達の横へと座る。
「この娘さんが、月さんですか?」
「はい。」
「なるほど……。とても良い娘さんだ。最初だから名乗っておこう私は【桂小五郎】だ。都には妻の【幾松】もいるから、きっと君のことを歓迎してくれるだろう。」
「と、言うことは……この者を側室に……?」
「ああ、残念だがそういうことになる。だが、安心したまえ。幾松は僕達よりもだいぶ年上だ。それにそういう関係を持ったことがないから、君の存在を喜んで受け入れてくれるはずだ。」
「それは随分と、寛大な奥様なのですね。」
「ああ、幾松は私の自慢の妻ですから。もちろん、君のことも大切にするつもりだ。だから安心して長州へ来るといい。」
「…………。」
そう言われても、月の気持ちが晴れることはない。
望まない戦略結婚で、しかも側室とは……、とてもじゃないが明るい気分などなれない。だが、この男と結婚しなければ、新撰組が無くなってしまうのだ。
月はただ我慢をし耐えていた。
「そうです、せっかくですから、月さんの剣術を見せていただけますか?」
「…………。」
「月さん……?」
「………はい?」
「剣術を見せて下さい。」
優しく語りかける桂。だが、それさえも虫ずが走る気持ちだった。
「わかりました……。すぐに準備を整えて来ます。」
月は準備をするために出ていった。
月は手合わせの準備をした月は、お寺の境内へと来ていた。
対する相手は桂が選んだ長州の兵士であった。
互いに相手を見据える。
「……それでは、始め!」