桜縁
近藤の合図と共に、兵士が月へ突っ込んで来る。
「やぁーーー!」
だが、月はそれを受け流すが、上手く払うことが出来ない。
「はぁっ!」
「!」
飛びのくので精一杯といった感じだ。どんどん敵に圧されていく。
「……あの剣はあの娘のものではないな……。剣と身体が一体となっていない。」
本来の月の実力はあんなものではない。あんな兵士などすぐに倒してしまうはずだ。なのに、月は倒すどころか、攻められる一方である。
明らかに何かが違う……。
近藤の目からも土方の目からも、それははっきりと分かった。
月は攻められ続け、反撃の隙もない状態まで追い込まれていく。
「!!」
バチンッと月が持っていた木刀が弾かれる。その反動で尻餅をついてしまう。
「やあっーーー!」
「!」
打ち込まれる寸前に、月は身を翻し、素手で相手の懐へと飛び込んでいた。
「!?」
二人の動きが止まり、周りの注目があつまる。
ドサリ……、と月ではなく兵士の方が、地面に崩れ落ちてしまった。
月の勝ちである。
その瞬間に拍手が沸き起こる。
「おお…!さすがだ!さすが、素晴らしい腕だ!」
拍手をして月の勝ちを喜ぶ桂。
「やはり新撰組は噂どおりのようだな。女にしておくにはもったいない腕だ!」
月の肩に手を置き、満足そうにする桂。
「……………。」
普通なら喜ぶべきところだが、これで確実長州に取り入れられてしまうのだ。
夫となる桂が褒めても、月は表情一つ変えることはなかった。
「長州に来たなら、長州の剣術も学んだらいい。」
「………。」
「さあ!今日は宴だ!皆で彼らの繁栄と、我らの友好を祝って宴を開くんだ!新撰組の方々も、長州から沢山持ってきたので、たくさん呑んで下さい!」
周りから歓声が上がり、兵士達が宴の準備へと取り掛かっていく。
土方は月を見るが、何も言わずに中へ入って行った。
月は落ちていた木刀を拾い上げる。
それを近藤が、月の手から取り、自分の腕に持った。
「……?」
「今日はもういいから、部屋で休みなさい。」
「………ありがとうございます。」
月は近藤に頭を下げると、自分の部屋へと戻って行く、近藤はその姿を心配そうに見送っていた。
結婚すると言っても、見知らぬ男との戦略結婚だ。不安なはずがない……。