桜縁
どうにかしてやりたいが、いまさらどうこう出来るものではない。近藤は持っていた木刀を持って片付けに行った。
夜になると宴が始まり、広間がお祭り騒ぎとなる。
近藤や土方達も参加して呑んでいた。
宴会会場から離れた月の部屋は、皆が宴会に出ているため静かであった。月が部屋を出ると、庭先の井戸で井上が食器を洗っていた。
「……井上さん。」
「月ちゃんか。どうしたんだい?」
「いえ、大変そうなので、私もお手伝いをしたいなと思いまして……。」
井上に近づく月。桶には大量の食器が浸けられていた。
「ありがとう。助かるよ。」
月は襷掛けをし、浸けられていた食器を洗う。
「井上さんは宴会には出られないんですか?」
「いや、私はああいう場所はどうも苦手でね……。逃げて来たんだよ。山南君も今部屋で休んでいる。」
「そうですか……。」
「君には、沢山迷惑をかけてしまったね。最後までこんなことになってしまって、なんと言ったらいいのか……、君が来てくれてこの浪士組は明るくなったよ。ありがとう。」
「井上さん……。」
その言葉だけで充分報われた気持ちになれる。月は涙を隠すように洗い物を続ける。
「私も……この浪士組にいられて本当に良かったです。」
「そうか……、そう言ってもらえて嬉しいよ。」
優しい優しい井上。まるで月のお父さんのような人だった。こんな人と離れるのは寂しい。
すると、会場の方から人の呼ぶ声が聞こえてくる。どうやらお酒が足りなくなったそうだ。
「じゃあここは頼んでいいかい月ちゃん?」
そう言って井上は、上がって行った。
一人残された月は、冷たい水で食器を洗って行く。
洗われた食器が月明かりに照らされて、白く光っていた。
そこへ誰かの足音が近づいてくる。
「………月。」
「………平助君?」
「シッ!静かに……。」
口に人差し指をあて、黙るように促す。向こうからは、長州の者達の笑い声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
「……ちょっと来い!」
「え……!」
平助に手を引かれ、人気のない屯所の裏手へと連れてこられる。
「サノさん、新八さん…!」
小声で呼びかけると、この時を待っていたかのように、原田と永倉が物陰から出て来た。
「よう!月。」
「……原田さん!?」
「月ちゃん。」