桜縁
「は、はい……!」
月は急いで大久保の側により、尺をする。
「……それにしても、こうしてお前に尺をされるなどと、月日は早いものだ。ついこないだ、お前達拾ったばかりに思える……。」
くいっと杯に入った酒を飲む。
「………月。」
「?」
「お前達の両親のいる場所が分かった。」
「……!」
「長州だ。……長州に行けば、もしかしたら、お前達の親に会えるやもしれん。」
「…………。」
「……お前は両親に会いたくはないのか?」
「……会いたくなどありません。私達は酷い仕打ちをされ、ドシャ降りの中、この薩摩の路上に捨てられたのです。いまさら、会いたいなどと思いません。」
「そうか……。」
酒をつぎ、それを飲み干す大久保。
忘れたくとも忘れられない、悲惨な記憶……。
その記憶はいまもなお、胸の傷として月の心を蝕んでいた。
なぜ、捨てられなければならなかったのか……、なぜ、このような仕打ちを受けなければ、ならなかったのか………。
今まで感じていた疑問が一気に沸き上がっていた。
「……だが、お前も知りたくはないのか、なぜ、自分達がこうなったのか、会って確かめたくはないか?」
「……いいえ!確かめなくとも、わかりきっていることです!私達はいらない子供として、処分されたのです!……それをいまさら、会おうなどと、どうして思えましょうか……!?」
「ふん、お前はまだまだ子供だな。」
「大久保様……!」
「よいか月、大人には大人の事情というものがあるのだ…。それは子供には分からない。だが、大人になればそれが理解出来るようになる。なぜ、そうなるべきだったのかをな……。」
「………。」
「まあ、話しはここまでにしておこう。会いに行くいなかいは、自分達で決めろ。答えが恐ろしくて、一生自分の正体を知らずに、ここで暮らすのか、それとも、故郷で真相を突き止め、わだかまりを無くすか…だ。」
「………。」
「まあ、お前の言うように、いらぬ子供として処分したかもしれんが、親はそう簡単に子供を殺したりは出来ぬものだ……。もし、それが本当のことだとしたら、また薩摩に戻ってくればいいだけの話しだ。お前達の居場所ぐらい、いくらでもあるからな。」
「大久保様………。」
「さて、私は退散するぞ。お前もさっさと休め。辛気臭い顔はお前には似合わぬからな。」