桜縁
どこか納得のいかないような感じだったが、沖田はそれ以上追求してこなかった。
そこへ、容保の部下がやって来る。
「失礼いたします。」
容保は新撰組との繋がりが深く、同じ志を抱いていたことは、沖田達も知っていた。
「これを容保様から預かって参りました。」
文を差し出すと沖田はそれを広げ、読み始めるが、その顔色が変わっていくのが分かった。
いったい何が書いてあるのだろうか。
覗き込もうとしても、今いる位置からは何も見えなかった。
「……決行は宴の後です。奴らが油断している時を狙います。」
「近藤さんは?近藤局長はご存知なのですよね?」
「はい、すでに連絡をしましたので、こちらの計画は知っています。」
「分かった。」
「では…。」
パタリと障子が閉まる。いったい何の計画だろうか。
「沖田さん、今のは…?」
「容保様の部下だよ。命令を伝えに来ただけ。」
「命令?」
「新撰組局長・芹沢鴨の暗殺。それに及び、その仲間を殺すことだよ。」
「!」
「前々から話しは出てたんだけどね。とうとう命令が下ったみたい。」
新撰組局長の暗殺……、それは新撰組にいた時に、何度か耳にしたことであった。
まさか、それが現実になるとは……。
「近々、また長州の奴らが来るみたいだよ。」
「!」
「僕らの婚礼に合わせて来るらしいから、君もその心積もりはしていた方がいい。」
「…………。」
その中に桂がいることも、沖田の言葉の中で分かった。
もし、月がここにいると見つかってしまえば、ただでは済まされなくなりそうだ。
もしかしたら、新撰組の存在を危うくしてしまうかもしれない。
月は悪い考えを追い払うように、身の回りの仕事を黙ってこなした。
それからしばらくして、事が動き始める。
予定通りに長州の使節団が到着し、会津藩邸はお祭りムードとなる。
これなら、誰にも気づかれずに、決行することが出来る。
沖田から聞いた話しだと、容保は藩主を暗殺し、会津をいっそうする構えだと言う。そして、新撰組もこれに伴い、芹沢鴨及びその一味の暗殺を決行することに同意した。
沖田もこの機会に常時て、藩邸を脱出し、その暗殺計画に参戦するらしい。沖田ほどの腕なら、芹沢達も一たまりもないはずだ。