桜縁
藩邸に残っても戦に巻き込まれるからと、月は沖田と一緒に新撰組へと戻ることを決めた。
この計画を知るものは、沖田と月以外に誰もいない。
計画が無事に終わるようただ、時を待つしかなかった。
蛍の部屋では、侍女達が花嫁衣装を着せ、綺麗に着飾らせていた。
その姿はまるで天女のようだ。
「綺麗ですわ~。さすが姫様。長州や会津広けれども、姫様に敵う者などおりませぬ。」
「本当にお美しい!今にも天に舞い上がりそうですわ。」
「沖田様もさぞ、驚きになられるでしょうね~。」
侍女達はここぞとばかりに、蛍を褒めちぎる。月はその傍らで、脱いだ衣装などを片付けていく。
「こら!そんなに褒めても何も出ないわよ?そういえば、沖田様の方は準備が整ったのかしら? 月。」
「?」
「悪いけれど、沖田様の様子を見てきてくれるかしら?きっと、お困りのこともあるだろうし。」
「あ!それなら、私が行きますわ!月さんはいつも大変そうですし、私が見て参ります。」
「そう?じゃあ お願いするわ。」
侍女は嬉しそうに出て行った。こんな時に沖田に会えるだけでも、彼女達は嬉しいのかもしれない。
他の侍女達も少し不満そうにしていた。
「お前達ももう下がっていいわ。」
蛍からの指示が出ると、明るい顔をしていそいそと出ていくのであった。
もちろん、蛍は侍女達がまさか、沖田目当てなどと知るよしもない。
「長州からの使節団が到着したと聞いたけれど、今は何処にいるのかしら?」
「藩主様と会っておられると聞きました。」
「……戦略結婚で、新撰組の沖田様を迎えると話しを聞いた時は、不安で仕方がなかったけれど、お前のおかげでいい結婚生活を始められそうだわ。ありがとう。」
「い、いえ……。」
改めてお礼を言われると、胸が痛くてたまらなくなる。
暗殺しかけた上に、利用しているなど、どうして考えられようか……。
この後にどんな事が起こるのか、知らない蛍。出来ればこのまま何も知らずにいて欲しいと願わずにはいられなかった。
月と沖田は顔を合わせる時間が少なくなっていた。もちろん婚礼のためという理由もあるが、月が相手にしないと分かってか、妙に気の回しの嫌がらせをし始めたらしい。
だが、そんなことにかまっている暇もなく、月は婚礼の準備に追われていた。