桜縁
婚礼を二日後に控え、蛍は長州の者達の宴席に出ることとなった。
月にとっても故郷の人と呼べる者達だが、絶対に気づかれてはいけない者達であり、新撰組の敵であった。
月は桂達にばれないように、容姿を変えて蛍と出席する。
すでに会場では、長州の者達が蛍を待ちわびていた。
「おおーー!姫様、お久しぶりでございます!お元気でしたか?」
「まあー!また一段とお美しくなって!」
「藩主様も見られたら、さぞかしお喜びになられるでしょう!」
臣下達が蛍の周りに集まり、歓迎の言葉を言っていく。
だが、不思議と結婚のことは誰も言わない。祝いの言葉すらないのだ。
「お父様もお母様もお元気ですか?」
蛍はそんなことには構わずに、話しを進める。
「ええ、とてもお元気ですよ!姫様が帰って来るのを心待ちにしております!」
「そう!……うわー!美味しそうなお料理!」
机いっぱいに広げられた料理を見て、目をキラキラさせて喜ぶ蛍。
「奥様が沢山持たせて下さいましたから。さあ、お座り下さい姫様!」
臣下に促がされるように、席に座る蛍。
「……で、この者は?」
蛍の側に立っていた月に、皆の注目が集まる。正体が看板されないよう、顔を逸らす月。
「!」
だが、その姿は一目で桂に看板されてしまう。
「私の侍女よ。夫となる方の仲立ちをしてくれてるの。」
「……。」
侍女………。
その言葉を聞いて動揺してしまう桂。まさか、こんな所に月がいたとは思わかった。しかも、よりにもよって蛍の侍女とは……。桂は確かめるように、月に視線を向けた。
月は桂と視線を合わさないよう、蛍の側に座わり、仕事をする。
あの時の月の容姿が違い、部下達は月だと気づていないが、動かす細い手や、長い黒髪、白い肌……。
間違いなく月だ。
桂は動揺を隠し、周りには気づかれないようにする。だが、その目は常に、月を追っていた。
それからあっという間に宴会ムードとなり、踊ったり唄ったりと、長州の者達は楽しんでいた。
月はその場に正座をしたまま、その貢献を眺めていた。
ふと、沖田のことが思い浮かぶ。
ーーー……今頃、どうしているのだろうか?
横を見ると蛍も一緒になって、周りの者達と一緒に楽しんでいる。
あれから、蛍の夫となるはずの沖田の話しは出ていない。