桜縁
まるで、沖田は部外者扱いだ。
いつも邪魔をする侍女達も、全員宴会に夢中になっている。沖田に会いに行くのなら、今しかないだろう。
月はそっと立ち上がり、静かにその部屋を出た。
涼しげな風が優しく包み込んだ。空を見上げれば、三日月がぼんやりと光っていた。
月が廊下を歩いて行くと、いつからいたのか桂と遭遇してしまう。
桂はまだ、気づいていない。何もなかったかのように、月はその後ろを通って行く。
だが、すれ違いざまに腕を掴まれてしまう。
「……化けるのがお上手ですね、月さん。」
「!」
名前を呼ばれ、慌てて振り返ると、桂がニヤリと笑っていた。逃げ出した月だと、看板されてしまったようだ。
「まさか、こんな所で会えるとは思ってませんでしたよ。これも運命の巡り会わせでしょうか。」
月は掴まれた腕を振り払おうとするが、しっかりと掴まれていて、振りほどくことが出来ない。
「何もしたりしませんから、落ち着いて下さい。君とは一度話さないといけませんからね。」
「……!」
そう言われては抵抗のしようがない。月は桂に連れられ、別の部屋へと入った。
緊縛とした空気の中、桂と月は向かいあって座る。
「あれから随分と捜しましたよ?まさか、こんな所におられたとは……。」
「…………。」
「そのような身なりをされたのでは、捜しても見つからないはずです。私に以外誰も気づかなかったのですから。」
「……なら、このまま見過ごして下さい。私は貴方の側室になる気はありませんから…。」
「……やはり、そうでしたか。突然いなくなったので、私なりに考えていました。大抵の女は、私よりもその地位や名誉、生活の暮らしを優先にして、私に媚びを売ったり、身売りをして来ますが、貴女はそうではない。……本当に私との暮らしを優先に考えていた。私はそんな貴女に惚れたのかもしれません。」
桂は懐から色鮮やかな簪を取りだし、優しく撫でるように、月の髪にそっとさした。
「私の妻となって下さい。」
真剣な目をした桂が、月の瞳を覗き込む。その瞳に思わず引き込まれそうになる。
だが、ふと沖田の顔が浮かぶ。
月は慌ててその身を離した。
「お断り致します。私は貴女のものにはなりませんから。」
それだけを言って、逃げるように月は部屋から出て行った。