桜縁
それからというもの、沖田と月は互いに会うのを避けていた。
むしろ、月の方が沖田を避けていると言った方が正解だ。
あんなことを言われたばかりで、とてもじゃないが、沖田の顔をまともに見られなかった。
自分ばかり空回りしているような気がして、なんだか情けなくなって来る。
そんな時に、蛍が意外な一言を口にする。
「月、あなたは好きな人はいるかしら?」
「え……?」
突然の質問に、呆けてしまう月。
いったい何の話しだろうか…。探るように見つめてくる蛍。それに他意は感じられない。
「いえ…。」
と、だけ答える。それ以上の理由も言う必要はないだろう。
「そう、なら今はお相手探しってわけね。」
「そういうことです。それに私はその気はありませんから。」
「でも、会ってみるだけでもいいんじゃないかしら?」
「いえ、遠慮しておきます。」
「そんなに謙遜することはないわ。一度だけ会ってみてちょうだい。貴女に相応しい男性よ。それとも、長州の人は嫌かしら?」
「そういうわけではありませんが。」
「なら、受け入れてくれるわね?貴女にはとっても良くしてもらっているし、貴女には幸せになって欲しいの。」
全く悪びれた様子はなく、むしろ本気でそう思っているようだ。
蛍には月の事情など関係のないものだ。
「………考えておきます。」
と、だけしか答えることができなかった。
その後、月は蛍の進めにより、長州の者と見合いをすることになった。
婚礼で忙しいので、見合いだけということで、あとのことは、長州で話しをするらしい。
蛍の着物を借りて、より美しい女性へと変身する。
「あらー!いいじゃないの!」
「ようお似合いですよー!」
他の侍女達にも囲まれ、その変身した姿に目を見開いて嬉しそうにする蛍。侍女達も結婚話のおかげで、コロッと手の内を変えていた。
「これなら、あの方もご満足されるわ。」
そういえば、見合いをするとは知っていたが、その相手は何故か秘密にされていた。
こんな格好までさせられたのだから、そろそろ聞いてもいいだろう。
「あの、蛍様。私のお相手とは誰なのですか?」
「あらあら、不安なのかしら?」
「不安というわけではありませんが、さすがに気になります。」
それもそうねと目を細める蛍。