桜縁
まるで近づいてくるな、と言われているようだ。
「用があるなら、早く言ってよ。こんな所他の人達に見られたら、大変なことになるよ。」
そう言われれば、何も返す言葉がなくなってしまう。
言葉に詰まっていると、沖田が試すように言う。
「……桂さんは上手だった?」
「え……?」
沖田はこの上なく、意地悪な笑みん浮かべ、全身から不機嫌な空気を発していた。
「長州藩の重役を手玉に取れて良かったじゃない。その衣装も似合ってるよ。」
「……!」
ーーーパーン!
「!?」
溢れ出しそうになる感情に耐えられず、月は沖田の頬を叩いていた。
月の瞳からは、熱い涙が零れる。
沖田は驚いたように、目を見開いていた。
「そう言うのなら、御望み通りに結婚してあげますよ!!」
月は泣きながら、その場から走り去って行った。
それから蛍の元に戻り、見合いの席へに出る。
こうなったら、とことん行けるところまで言って、幸せになってやろうと、見合い会場へと足を向ける。
もう、流す涙もとうに涸れた。今はもう一人の女として、目の前に置かれた現状を受け入れるだけ。
月は部屋の前に正座をし、自分が来たことを告げる。
すでに中には蛍や、その相手方がいるはずだ。
「おはいり。」
蛍の声がし、月は中へと入って行き、蛍の隣に座る。
だが、その相手を見て驚いてしまう。
「!」
なんと見合いの相手は桂であった。桂も月の姿を見て驚いていた。
まさか、見合いの相手が桂とは……。
何かの間違いであって欲しいと思う。
だが、二人の心境などお構いなしに、蛍は縁談を始めてしまう。
「こちらは『月』。身分が低いながらも、私の優秀な侍女です。こちらは、私の臣下である『桂』殿。父上の右腕となっている方です。」
とりあえずは初対面ということで、それぞれ頭を下げ挨拶を交わす。
「私も明日に婚礼を控えておりますゆえ、今日の所は顔見せということで、どうです桂殿?月のことは気に入りましたか?奥様にはもう子供は望めませんし、月なら若くて綺麗なので、望めると思いますが?」
「姫様……!」
「あら、気に入らないのかしら?」
「そういうことを言っているのではありません!そんなこと彼女の前で言っては、失礼ではありませんか!」