桜縁
「後で知らされるよりずっといいわ。どうせ、奥様が吹き込むに決まっているのですから。」
『奥様』というのは、桂の正妻である『幾松』のことらしい。
吹き込むということは、はなっからこれが長州と会津の目的のようだ。
「ですが、もう少し言い方というものがあるでしょう!?それではまるで、彼女が僕の子供を産むためだけの、道具だと言っているようなものではありませんか!!」
「正妻であろうと、側室であろうと、基本は同じこと。子供が産めなければ、その存在価値はないのですから。」
つまり、女は子供を産めなければ、お飾り扱いにされ、しまいには側室達に乗っ取られ、地位や立場も危うくなってしまうのだ。
男以上に女は大変かもしれない。
「立場が平等になれるよう、長州に行ったら月の身分を上げ、それなりの地位を与えます。長州を支える立場の方が、後継者がいないのでは、長州の存続に関わります。桂殿が嫌でも月とは結婚していただきますので、そのつもりでいて下さい。」
「姫様……!」
蛍は桂の話しには耳も貸さずに、部屋から出て行ってしまい、二人だけがその場に残された。
「……申し訳ありません。姫には後で、私から断ると言っておきますのでお許しを…。」
申し訳なさそうにする桂。桂は好きだと月に言った、結婚したいと……。だが、今の話しからすれば、子供を産むためだけに、月を好きになったのかもしれない。どんなに甘い言葉を言われたとしても、それは長州のためであって、月のためではないのだ。
なんだかとても虚しい気持ちにさせられ、反論を言う気も失せてしまう。
「……もういいです。貴方の気持ちは分かりましたから、気にしないで下さい。」
月はスッと立ち上がり、部屋を出て行こうとするが、その手を捕まれる。
「そんな顔をして、何処へ行くのですか?」
「あなたには関係ありません。放っておいて下さい。」
「関係なくない!」
「!」
くるりと身体を回転させられ、桂に抱きしめられる。
頬に桂の温かい感触が広がっていく。
「貴女は分かっていない!私は本気で貴女を好いているのだ!決して利用だけしようとしたのではない!妻以上に貴女を愛している……!」
ギュッと抱きしめられる腕に力が篭る。
これが何も知らないの女なら、墜ちていたかもしれない。
だが、月の心には桂はいなかった。