桜縁




「長州へ……?」


「うん……。あれからね、よく考えたんだけど、やっぱり私は父さんと母さんに会って確かめたいの。なんで、私達がこうなってしまったのか………。なんで、捨てられなければならなかったのか………。それを知りたいの……。」


「月……。」


「それにね、大久保様にも言われたの!事実はちゃんと知るべきだって……!だから、もし本当に父さん達が私達を殺そうとしていたなら、その理由もはっきりさせたほうが良いと思いの。……だからね……。」

月が振り返ると同時に、史朗は月を抱きしめていた。


「……分かった。月がそう決めたなら、それでいい。」


「兄さん……。」


「一緒に長州へ行こう……!」


「はい。」


こうして、月達の長州行きが決まった。



しかし、この先に待ち構えている二人の運命は、残酷にも容赦なく二人を飲み込もうとしていた……。








月は出て行く支度を整えていた。


すでに綾子達への挨拶はすませていた。長州との戦を控えている今、兵士達の警戒が著しくなっている。


薩摩を出るならば、早いほうがいい。


これから、綾子の計らいで長州へ行く商団に紛れて、薩摩を脱出することになっている。


最低限の荷物をまとめ、皆に気づかれぬよう裏口から表へと出る。


約束をしていた場所にはすでに、史朗と綾子が待っていた。


「誰にも気づかれませんでしたか?」


「はい。」


「では、この者達と共に旅立ちなさい。後のことは指示してある。」


「はい。」


「くれぐれも注意するのだぞ?いいな?」


「……はい。」


「では、出発なさい。」


「……いってきます!」


商団の荷台が動き出す。それに伴い月と史朗も共に行く。


これからは何が起こるか分からない、危険な旅だ。


月はもう一度、綾子の方を振り返り、そして長州へ向けて旅立って行った。







一方で、臨戦体制を整えている薩摩に対し、長州はすでに戦を仕掛ける準備までしていた。


後は、戦いの火蓋を切るだけだ。


長州の軍の指揮をとるのは、長州藩主である【高杉晋作】だ。


彼は長い間、戦を幾度となく経験をし、長州を勝利へと導いていた。


そんな中、高杉の元にとある者が訪ねて来来る。


高杉の娘である【蛍】である。



「お父様!」


父親がいる幕舎の中に入るやいなや、その胸に飛び込む。
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