桜縁
「おお!蛍か!よく来たな!」
高杉も娘を抱きしめる。
「もうすぐ、薩摩と戦をなさるのでしょう?心配で来てしまったわ。」
「なあに、心配することはない!薩摩なんか、あっという間に蹴散らして、お前や母さんのいる都へ戻るさ!」
「フフフ……!」
「それで、母さんは元気にしているのか?」
「ええ、皆元気にしているわ。でも、お父様がいなくなって、お母様は寂しそうにしてたわ。」
「ハハハハ…!そうか、それなら早く帰ってやらなければならないな!」
「そうよ!だから、戦いは兵士達に任せてお父様は都に帰ってくればいいのに……。」
口を尖らせる蛍。
長州の兵士の士気の高さは、どこの藩よりも圧倒的に勝っている。今の兵力で薩摩と正面から戦っても、こちら側が勝つことは目に見えていた。
だから、高杉がいなくても、長州が勝つことは明らかなのだ。
「まあ、そう言うな!これも藩主としての役目だ!命を懸けて戦う兵士達を前にして、俺達だけ安穏としているわけには行かないからな。」
「そうね、ごめんなさい。」
「いや、お前が謝ることはない。これは父ちゃんの役目だからな。お前は気にしなくていい……。それより、お前もうすぐ誕生日じゃなかったか?」
「ええ、そうよ。だから、早くお父様に帰って来て欲しくて……つい、ここまで来てしまったの。」
「なんだ そうだったのか…!気にすることはない!すぐに飛んで帰ってやるさ!」
「それよりも、薩摩からお祝いの商団が来るって聞いたけど……、大丈夫かしら?」
「ああ、その辺りは問題ない。大久保は敵だが、そんな卑怯な真似をする男ではないからな。安心して受け取っておけ。」
敵としては戦うべき相手だが、その他の面では大久保を信頼していた。
「………分かったわ、そうする。じゃあ、私は先に帰ってるから、お父様も早く帰って来てね。」
「ああ!すぐに帰るさ。母さんによろしく言っておいてくれ。」
「ええ、それじゃあ。」
蛍は幕舎から出て行った。
都で帰りを待つ者達のためにも、早くこの戦を終わらせなければ……。
高杉は軍の見回りへと出て行った。
一方、商団に紛れて長州へ向かっていた月と史朗は、薩摩と長州の県境にある藩境へと来ていた。
ここを越えれば、長州だ。
緊張感が漂う中、兵士達が商団の荷物を確認して行く。