桜縁
いや、新撰組幹部に関わっていないものは皆知らないでいる。だから、暗殺の件は幹部達の間だけの機密となっていた。
「……月ちゃんはいいな。」
ポツリと呟くように言う美月。別にといいながらも、やはり何かを言いたいようだ。
「何がですか?」
「沖田さんと仲が良くて。」
「ああ……。」
きっと夕膳の時の様子を見たのだろう。刀や恋仲むなじい関係以外を除いて、月と沖田には裏の協定が結ばれていた。
互いに土方や近藤の目を盗んで、嫌いな食べ物を交換しあうということだ。
幸いにして席が隣同士のため、見つからずに器に移し変えられる。それを向かいに座っていた美月が見ていたのだった。
「あれは違いますよ。お互い嫌いな食べ物を交換しているだけです。席が隣だから都合がいいんです。」
「それでも、ああやって出来るってうらやましいよ。本当に恋仲じゃないの?」
探るような目つきで月の顔を覗き込むんでくる。その目は明らかに真剣そのものだ。
美月は沖田へ本気で恋心を抱いている。沖田を前にするとしおらしくなり、時より沖田の傍へ自分から行くこともあった。
沖田はそれに気づいていないフリをしているのかワザとなのかハッキリしたところは分からない。彼の場合ワザとだと月はふんでいる。
「そ、そんなことありません。」
「本当に?」
「……本当です……。」
この間の出来事が頭に浮かぶも、それを掻き消すように手を動かす。想いが重なっていても恋だとか恋愛感情だとか、そういうものではない。
だから、美月が沖田に恋心を抱いていようとどうこうする気はない。
ただ、胸が苦しいだけ。
自分が恋愛対象外になっていることが苦しいのか、横にいる美月への嫉妬なのか、胸に渦を巻いていた。
黙々と食器を洗う月の様子を見て、美月はそれ以上には追求せず、変わりに自分の気持ちを口にした。
「私、沖田さんに告白しようと思うの。」
「えっ?」
虚をつかれ、思わず美月を見る。
今、なんて言った……。
告白……?
疑うように見る月だが、美月の表情は真剣そのものであった。
「今まで私なりに頑張ってきたつもりだったけど、やっぱりこのままじゃ嫌なの。だから告白して、沖田さんに自分の想いを告げるわ!」
美月は照れたように笑うと、屈託のない顔で言った。
「そ、そうですか。」