桜縁




「だからね、お願いがあるの。」


「お願い?」


「うん、その…お膳立てたを頼めないかな…?」


「!」


「部屋にいる沖田さんを連れて来て欲しいんだ。私は…道場で待ってるから。月ちゃんの誘いなら来てくれると思うし。」


少し俯きながらどこか寂しそうに言う美月。やはり相手に気づいてもらえない分心細いのだろう。


美月の手が微かに奮えていた。


「……分かりました。」


「ありがとう!なら、私がここをしておくから、それが終わったら道場に行ってるね!」


「ええ…。」


一瞬迷ったが、美月は月の手から食器を取ると、鼻歌を唄いながら食器を洗い始める。それを見ていると、どうしても言えなかった。


沖田はきっと、月がお膳立てをしたりすることは好ましくは思わないだろう。


だが、彼女だって怖いのだ。


微かに奮えていた手……。


美月の頼みを断ることも出来ずに、月は沖田の部屋へと向かった。







暗い気持ちで廊下を歩いていると、前の方から賑やかな声が聞こえてくる。


原田達だ。どうやら皆で湯屋へ行っていたらしい。その中には都合の悪いことに沖田もいた。


「あ、月ーー!」


「平助君。」


笑顔でドタドタと肩に手ぬぐいをかけたまま廊下は走って来る。


「よう、月。」


「原田さん。皆さんで湯屋へ行ってたんですか?」


「ああ、汗かいちまったからな。皆で行こうって話しになったんだ。」


「裸の付き合いも大切だからな!月ちゃんも入って来たらどうだ?まだ、お湯温っかいぞ。」


顔から湯気を出しながら、永倉はニカッと笑いながら言う。


「はい、後で行きます。それより沖田さんに用があるんですけど。」


原田達の後ろにいる沖田に目を向ける。


「そっか、なら俺達は先に行くかな。」


「お!部屋で一杯やるか?」


「おお!いいね!早く行こうぜ!総司も後で来いよな!」


そう言って三人は楽しそうに去って行った。


廊下には沖田と月だけとなる。


沖田は寝間着姿で平助と同じように肩から手ぬぐいをかけていた。


「で、用ってなに?」


「……ついてきて下さい。」


それだけを行って沖田を連れて歩きだす。その歩みはいつもより重い。


「何処に行くの?」


「行けば分かります。」


「……ふーん。なら行かない。」


沖田は歩みを止めた。


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