桜縁
月は振り返り沖田の方を見た。
「用があるって言うから、ついて来たけど教えてくれないならついていかない。」
「……美月さんが、話したいことがあるそうなんです。」
「黒崎さんが?」
月はこくりと頷いた。
「ふーん……。」
何かに感ずいたのか沖田の顔から笑みが消え、踵を返そうとする。
「沖田さん?」
「用があるなら、自分で呼びにくればいい。なんで月ちゃんが呼びに来る必要があるの?」
「それは……その…。」
口ごもってしまう月。
まさか告白のために呼びに来たとは言えない。
困っていると沖田は呆れたようにため息をつく。どうやらそういうことのようだ。
「……そうことだったんだ。」
「え……?」
「黒崎さんも分かってるじゃない。」
戸惑う月を余所に、沖田は再び向きを直し歩き出した。
「なにしてるの?僕を黒崎さんの所に連れて行ってくれるんじゃないの?」
「あ、はい。」
少し沖田が怖かった。いつもの雰囲気とは違い、静かな怒りが表れているようだった。それと同様にとてつもない不安が胸の中で渦をまく。
月は微かに奮えていた手を握りしめ、先導をしながら美月の待つ道場へと向かった。
道場へつくと、美月が一人で正座をしていた。
「美月さん、連れて来ました。」
「!」
声に反応し緊張した顔でバッとこちらを見た。二人で美月の前に座る。
「まさか、黒崎さんから試合を申し込まれるとは思わなかったよ。」
「…………。」
いつもの調子で冗談を言う沖田だが、美月は俯いたまま手を握りしめ、緊張しきっていた。
なんだか、お見合いをしているみたいだ。
居心地が悪くなり月はその場を離れることにした。
「私、部屋に戻りますね。」
「待って!ここにいて、お願い!!」
「美月さん……。」
嘆願するように目に涙を浮かべながら、美月は立ち上がった月の裾を掴んでいた。
「ここにいれば?」
「………はい。」
どうするか迷ったが月はその場に留まることにし、座っていた場所に座り直した。
「で、用件はなんですか?」
真っすぐと美月を見る沖田。美月はビクッと肩が上がる。そして意を決してように沖田を見返した。
「あの、沖田さん。」
「……!」
美月の沖田を呼ぶ声を聞くと同時に、月の胸が激しく鼓動する。