桜縁
嫌……!
それ以上言わないで。
耳を塞ぎたくなる。言わないでくれと言いたくなる。
ギュッと目をつむる月。
月の気持ちとは反対に、美月はハッキリとと沖田に告げる。
「好きです!私と結婚して下さい!!」
「!!」
告白と同時に胸に、ズシッと何かが圧しかかる。
見開いた目でおそるおそる沖田の方を見る。
沖田は予想していただけに、驚いた様子もなければ動揺する様子もない。
そしてキッパリと答えた。
「悪いけど、僕まだその気はないから諦めて。」
沖田は静かな笑みを浮かべたまま穏やかに言うが、そんなので納得するはずがない。
だが、そんなことはお構いなしに、追い打ちをかけるように言う。
「用はそれだけだよね?なら、僕はこれで失礼します。」
アッサリと言い放ち、立ち上がって踵を返そうとする。
月が呼び止めようとする前に美月が叫んだ。
「待って…!!」
「なに?まだ用でもあるの?」
「その気にならないと言うなら、その気になるまで私は待ちます!だから……、」
泣き出しそうになるのを必死にこらえる美月。
だが、沖田は一瞬月を見ると、冷たい目に変わり淡々と言う。
「そんなことをしても無駄だよ。」
「なんでですか!」
「分からない?僕は告白相手を、自分で呼びにこれないような女は大嫌いだからだよ。」
「!!」
バッと振り返るが沖田はさっさと出て行く。
美月はワッと、その場に崩れるように泣き声を上げた。
こんなのいくらなんでもあんまりだ。
月は沖田の後を追いかけた。
「沖田さん!」
早足で前を歩いて行く沖田を追いかける。
「沖田さん!!」
誰もいない廊下へ来ると、沖田は歩みを止めてゆっくりと振り返った。
「なに?まだ他にも用があるの?」
「そうじゃありませんけど、あんな言い方しなくても。」
月が抗議するように言うと、沖田は眉を一瞬吊り上げた。
「じゃあ、どう言えばいいって言うんだろうね?好きでもないのに、僕の妻にします、とでも言えばいいわけ?」
「そうじゃありません!!」
「じゃあなに?」
普段とは違う大人びた表情をして冷たい目をしながら話す沖田。
別に彼女を妻にしろとか、そういうことを言いたいんじゃない。
ただ、同じ女として見過ごせなかっただけ。