もう猫になんか生まれない
事あるごとにクイは、思い出して、と臨に言う。
それが不愉快な訳ではない。
ただ言われるたび体の奥に焦りが溜まって、次に言われた時それらが一気に揺さぶられるのだ。
何度記憶をなぞっても、クイの姿が出てくるのは三ヶ月前からで。
時折クイの言動に淡い懐かしさを覚えるのだが、頭痛だったり眼痛だったりに邪魔されてそれも消えてしまう。
残るのは、きっと良い物であろう思い出をクイと共有できない寂しさ――。
「ああっ!」
クイの叫びに、ぼんやりしていた臨はびくっとした。
お重の風呂敷包みを開けたクイの顔が、瞬く間にしょんぼりしていく。
「水筒忘れた……」