もう猫になんか生まれない



事あるごとにクイは、思い出して、と臨に言う。



それが不愉快な訳ではない。



ただ言われるたび体の奥に焦りが溜まって、次に言われた時それらが一気に揺さぶられるのだ。



何度記憶をなぞっても、クイの姿が出てくるのは三ヶ月前からで。



時折クイの言動に淡い懐かしさを覚えるのだが、頭痛だったり眼痛だったりに邪魔されてそれも消えてしまう。



残るのは、きっと良い物であろう思い出をクイと共有できない寂しさ――。






「ああっ!」



クイの叫びに、ぼんやりしていた臨はびくっとした。



お重の風呂敷包みを開けたクイの顔が、瞬く間にしょんぼりしていく。



「水筒忘れた……」



< 13 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop