もう猫になんか生まれない
両手にペットボトルを持って、臨はクイの元へ急いだ。
「クイ――」
声をかけようとして、臨は驚いた。
三ヶ月暮らしてきたから、クイの暗い顔を見たことはある。
けれど、あんな哀しみと焦燥が混じったような表情は見たことがない。
「クイ、ほれ」
変わらない口調を心がけて、デコにペットボトルを押しつけてやると、はっとクイが自分を見た。
「ありがと」
「食おうぜ。――あ、白和えだ。お前食うなよ、全部俺のだ」
「え、多めに作ったのに」
「駄目です。白和えという食べ物は間宮臨という男と表裏一体なんです」
鮮やかな色彩の弁当を互いの膝に広げて、じゃれあうように言葉を交わす。
クイは、もう穏やかで明るいいつもの顔色に戻っていた。