もう猫になんか生まれない
夏
「今日ずいぶんむしむしするね」
「きもちわるい……」
梅雨前線なる湿気の王が、天気予報によればこの辺りに近づいているらしい。
体に絡みつくようなむわっとした空気に辟易として、臨はテーブルに突っ伏していた。
「臨、もう食べないと遅刻しちゃうよ」
粒の立ったぴかぴかのごはんに、ワカメ増しの味噌汁、そして小ぶりなアジの開きとほうれん草のおひたし。
クイが作った本日の朝食は、臨の前に並べられて二十分経ったがほとんど減っていない。
「蒸す……食欲ねぇ……」
昨日までは、爽やかな初夏だったはずだ。
いきなりこの陽気は詐欺だろう、と臨はどこかに向けて訴えた。