もう猫になんか生まれない



時間通りに講義は終わったからまだ2時台だが、外は薄暗かった。


構内の売店で傘を手に入れ、駅まで歩く。


熱っぽい空気からは甘い匂いがした。


甘いだけではない、重くて濃いこの香り。



(何だっけ……くちなし?)



梔子。


この時季よく咲いている、白い花。



湿気と薄くかいた汗のせいで、シャツが体にまとわりつく。


電車は電車で、クーラーが効きすぎていて寒い。



何を考えても、気候のせいで面白くない方向に落ち着いてしまう。



こういう時は、意識して明るい事を考えなければ。



(――そういえば)



思い浮かんだのは、やけに地味な事だった。


< 25 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop