もう猫になんか生まれない
時間通りに講義は終わったからまだ2時台だが、外は薄暗かった。
構内の売店で傘を手に入れ、駅まで歩く。
熱っぽい空気からは甘い匂いがした。
甘いだけではない、重くて濃いこの香り。
(何だっけ……くちなし?)
梔子。
この時季よく咲いている、白い花。
湿気と薄くかいた汗のせいで、シャツが体にまとわりつく。
電車は電車で、クーラーが効きすぎていて寒い。
何を考えても、気候のせいで面白くない方向に落ち着いてしまう。
こういう時は、意識して明るい事を考えなければ。
(――そういえば)
思い浮かんだのは、やけに地味な事だった。