裏切りの恋
「どうした?別に気にしなくていいからさ」
「あ、うん……」
明は笑って、電話に出るように促す。
そして気を遣うように、缶ビールを手に取ると、ベランダへ出て行った。
そこまでされたら、出るしかない。
あたしは息を大きく吸い込むと、応答ボタンを押した。
「………もしもし…」
《……夕菜…》
その声を聞いた瞬間、涙が溢れそうになった。
ずっとずっと聞きたかった声。
ずっとずっと呼ばれたかった名前。
どうして忘れたいはずのこの想いが、涙が出るほど愛おしいんだろう……。
「なんですか……?」
あたしは溢れてきそうな涙を堪えて、静かに言葉を発した。