裏切りの恋
「私たち、全然あの子にかまってあげられてないからよくわかっていなくて……。
明、そんなことをするまで、何かに追い詰められていたのかしら……」
「……あ…」
母親として、ものすごく心配しているのが伝わった。
だからこそ、あたしにはどう答えたらいいのか分からなかった。
「あの子ね、小さいころから優しい子で…いつも周りに気を遣ってばかりだったのよ。
私たちや徹…あ、明の兄ね。徹にまで気を遣うことが多かったし。
そのせいもあって、時々あの子は本当に心から笑っているのか分からないことがあったの」
おばさんから聞いた言葉は、あたしが入学当初、明に抱いていた印象と同じだった。
「でも、あなたを紹介するために一度こっちに帰ってきたときね。明が別人のように見えた。
本当に心の底から笑っているように見えて、ああ…ようやく素を出せる相手を見つけられたんだな…って安心したのよ」
「……」
「だから……だからどうか……」
おばさんはすがるような瞳であたしを見つめる。
「どうか…明のことをよろしくお願いします」
それは、あたしには一番ふさわしくない言葉だった。