裏切りの恋
 
「どうしたの?こんなところで……」


香織さんは、にこにこしながらあたしへと近づいてきた。
あたしはどう接したらいいのか分からず、言葉に詰まる。


彼女は知っているのだろうか。
あたしと裕翔のことを……。


「あたし、今から裕翔の家に行こうと思ってさ。
 今日はクッキー焼いてきたんだー」

「……え?」


当たり前のようにそんなことを言う香織さん。
あたしの頭は混乱して、


「別れたんじゃないんですか?」


つい、ストレートにそう言ってしまった。


「……どうしてそんなこと知ってるの?」


その言葉を聞いた瞬間、香織さんのさっきまでの笑顔が一瞬で消えた。
だけどすぐにまたにこっと笑うと……


「そっか。夕菜ちゃん、同じ職場だもんね。
 耳に入っちゃったのかな」

「あ、えっと……」

「夕菜ちゃん、ちょっとお茶しよっか」


そして半ば強制的に、あたしは香織さんに連れ出された。
 
 
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