抹茶モンブラン
1章

1. 新しい上司

「必要なOSを、これから習得してもらいたい」

 簡単な事務処理だけしていた契約社員の私に、会社はこういう特殊な命令を下した。
 
 契約の仕事内容も「事務」から「データ処理」に変更され、私はウインドウズしか動かした事が無いのに、職場で扱う膨大なデータ処理作業の為の人員に選ばれた。

「人不足でね。正社員を雇う余裕が無いんです」

 私がOSの手引きを見ながら呆然としていると、人事の大村さんがそう言って苦い顔をした。

「私なんかが出来るんでしょうか、こんな難しい事」

 不安でつい大村さんにすがるような目を向けてしまう。
 でも、彼は落ち着いて“大丈夫ですよ”っていう顔をしている。

「まあ…出来るかっていうより、出来てもらわないと困るって感じですよ。あなたは普通の人より3倍努力する方ですから、きっと頑張ってもらえると信じてますよ」

 かっぷくのいい体を椅子から起こして、彼はニッコリ言った。

「頑張ります……」

 私、乙川鈴音(おとかわすずね)は29歳にしてバツイチ、職歴無しだった。
 趣味程度に大学でパソコンはいじっていたけど、大学を卒業すると同時に結婚したから、一度も社会に出て働いた事が無かった。

 何のスキルも手にしない無職の主婦が、文無しで離婚した。
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