抹茶モンブラン
「ワインで具合が悪くなっちゃって……その晩高田さんのお部屋に泊めてもらったの。それだけ。次の日の朝一番の電車で帰って来たし、それだけよ」

 敬語を外して語る鈴音の言葉は、今まで聞いた声よりも若干近く感じた。
 真剣に僕の顔を見つめ、鈴音はよどみのない瞳を潤ませている。

 本当の事を語ったのが分かった。
 鈴音は高田の家に泊まった。
 事情はどうあれ、あの男のアパートで一晩過ごしたのか……。

 大きなため息とともに、自分の苛立ちが消えるのを願った。

 子供じゃない。

 僕はもういい年をした大人だ。
 恋人が事情があって他の男の部屋に泊まったと知っただけで狂ったように嫉妬にまみれるなんて……あり得ない。

 なのに、僕の心は清らかなものとは全く正反対に向いていく。
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