抹茶モンブラン
 こんな反省をしたって私達の関係が良くなる訳でもなく、私は軽く失恋したような気持ちで日々を過ごしていた。
 離婚したての頃も、今みたいな脱力感の中にあったような気がする。
 何かしようと思っても集中力が落ちていて、うまく進まない。
 料理すら満足に出来なくなって、お弁当を作るのもしんどいと思うようになった。
 私が精神的に参っているのを一番分かっているのは光一さん本人で、お弁当はもういらないと随分前に言われていたから、私はその通りに作らなくなった。
 自分の為だけのお弁当は本当に適当になってしまい、最近では以前頼んでいた仕出し屋に注文する事の方が多い。

「鈴音?」

 買い置きの牛乳が無くなったから、ついでに食材も少し買っておこうと思って立ち寄ったスーパーで唐突に声をかけられた。

「俊哉……」

 会わないようにと気をつけていた前夫が、目の前で買い物カゴを手にして立っていた。
 この日は彼一人が買い物していたみたいで、奥さんも赤ちゃんもいないようだった。

 彼の顔を見たらきっと憎しみがわくだろうと思っていた。
 許せない気持ちが再燃して、自分が苦しくなるだけだと。

 なのに、しばらくぶりに見た前夫の顔は思っていたより幸せそうでもなくて、それとなく生活と仕事に疲れた様子の見える普通の男性だった。
 光一さんと同い年だったはずだけれど、見た目は光一さんの方が若く見える。
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