抹茶モンブラン
「鈴音も新しい人とか出来たの?」

 彼からこんな事を聞かれるとは予想もしてなかった。
 でも、私はその質問に素直に頷いた。

「俊哉とは全然違うタイプの人。見た目は強そうなんだけれど、すごく内面がもろい人で……。俊哉は逆だったわね。あなたは誰かを支えていたいっていう人だったものね」

 そう言うと、俊哉は少し考えるような仕草をしてから「そうかもね」と力無く笑った。

「また見かけたら声かけていい?」

 彼はその場から立ち去る前に、私にそう言った。

「うん。もう逃げなくていいんだと思ったら、私も気が楽になった。じゃあね」

 買うべきものは全てカゴに入っていたから、私はそのままレジに向かって歩いた。

 予想していたよりずっと自然な会話で、まるで古い幼馴染とでも再会したような気分だった。
 新しい生活を受け入れながらも、彼なりに苦労はしている様子で、私はやっぱりこの世はそんなに甘い事だけで構成されていないんだというのを漠然と感じたりしていた。

 12月に入って、本格的な寒さになった。
 ずっとタンスの中に眠らせていた冬服を引っ張り出した。
 コートを羽織るにはまだ早い気もして、ジャケットの下にカシミヤのベストを着たりするのが定番スタイルだ。

 いつも通りの朝。
 挨拶をしながら、私は研究室へ足を急がせていた。
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