抹茶モンブラン
 好きな人と一緒に料理をして、他愛のない雑談をする。

 たったこれだけの事が涙が出るほど嬉しい。
 私は一人に戻ったわけじゃなかった。

「鈴音?どうした」

 また涙をポロッとこぼした私を見て、光一さんの手が止まる。

「ううん。嬉しくて。光一さんの心が私から離れなくて良かったなって……」

 安堵しすぎた涙だという事を伝えたくて、私はそう言った。

「僕の方が鈴音に去られたら生きていけないんだよ。だから、今すごく嬉しいよ。少しだけ弱い君を見られた事で、僕も何か役に立てるかな……って思ったりして」

 光一さんはそう言ったけど、実は彼の存在のおかげで前夫との関係を清算できそうになっている。
 彼が存在しているだけで、私の心に開いた穴が埋められている。

「ねえ、また夜の海ほたるに行きたい」

 私はたまねぎを丁寧に炒めながら、そう呟いた。

 あの思い出の場所に、また一緒に行きたい。
 そうすれば……もっと素直な自分になれそうな気がする。
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