抹茶モンブラン
「もちろんそうですね。私の精神力にかかってると思います。でも、こんな事言ったら人間として最低だって分かってるんですけど……」

 大人しい鮎川さんだけれど、この時の彼女は、自分の中にあるとても強い気持ちを必死に口でどう説明したらいいのかと考えているようだった。

 数十秒沈黙が続いた。
 やがて、決心したように鮎川さんは顔を上げて私を見る。

「あの……お願い、お願いです。私から堤さんを奪わないでください」
とうとう短い言葉で彼女は魂の叫びとも言える言葉を口にした。

「光一さんは、でも……」

 私の恋人だ。
 彼は私の大事な大事な命にも代えがたい人……。

 でも、肉親を失い、頼れる親戚も友達もいないらしい孤独な彼女を唯一支えているのは光一さんただ一人。
 言葉を続けられなくて、私は黙ってしまった。


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