抹茶モンブラン
 一応働く手足があって、日々の生活を無理なく過ごせている私。
 田舎には両親がいて、縁談の話もある。
 私の条件の方が鮎川さんよりも安定しているのは確かだ。
 この事実が私を本心から切り離し、「光一さんと離れるしかないのではないか?」という気持ちにさせる。

 どうして私はこういう時にいい子ちゃんになってしまうんだろう。

 心の底では絶対に光一さんと別れるなんてあり得ないと思っているのだ。
 なのに、その本心を隠すように、私は彼との別れを選ぶのが正しいんだと自分に言い聞かせている。

『鈴音、他人の不幸の上に自分の幸福は無いのよ。覚えておいてね』

 かわいがってくれたおばあちゃんが、小学生ぐらいの時に私に言った言葉だ。
 何故かそれが忘れられなくて、私はその言葉を色紙に書いて自分の部屋に飾ってある。
 光一さんがその色紙を見つけて「鈴の音のように可愛らしく育った君は、心もこんなに美しく生きるよう願われて育ったんだね」と言っていた。

 自分の幸せの前に他人の不幸があるというのは無視できない事だ。
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