抹茶モンブラン
 鮎川さんと私の存在に挟まれて苦しむ光一さん。
 光一さんを忘れられない私。
 私に罪悪感を抱きながら、光一さんへの恋心で苦しむ鮎川さん。

 ……誰も幸せになっていない。最初から分かっていた事だ。

「誰かを助ける為に、鈴音さんは自分の心を殺してるんですか?心は誰にも縛れませんよ……ましてや自分の心には一番正直でないと。本当の思いやりっていうのは、自分の心も大切にしている人にしか持てないものですよ」

 事情をほとんど知らない小山内さんの客観的な意見は、かなり核心を突いていた。この人の洞察力には本当に感服させられる。

 誰にでも人を好きになる権利はある。
 だから、鮎川さんが光一さんを好きになるのも当然の権利。
 同じように私も光一さんを好きでいてもいいはずだ……。

 無理に彼を忘れようとしたから苦しかったのかもしれない。

「小山内さんの言う通りと思います」

 私がやっとそう言葉にしたところでタクシーが1台止まった。
 小山内さんは”一人で大丈夫ですか?”と確認してくれ、私が頷くとそのまま後部座席に私だけを乗るように言った。

「出すぎた言葉、すみませんでした。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 多分もう二度と会わないだろう事を、二人とも何となく察知していた。
 大事な事を小山内さんはとても簡潔に私に教えてくれた。
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