抹茶モンブラン
「……紗枝」
 落ち着いたのを確認して、僕は彼女の目を見てゆっくり口を開いた。

「紗枝は大事な人だ。尊敬する鮎川の妹だし、僕自身も君を妹みたいに思ってる。ただね、僕も本当はそれほど強い人間じゃないんだ。君に見せていない情けない分部や弱い部分がたくさんある。それを見せずに君をフォローできたのは、僕を後ろで支えてくれていた人がいたからなんだ」

 そこまで言ったところで、紗枝の様子を伺う。
 涙は止まっていて、じっと僕の話を聞いている。

「……紗枝を生涯支えたいと思ってる。君がいつか一緒に暮らしたいと思える異性に巡り会うまで、僕は君をフォローし続けたい。でもね、それを可能にする為には、僕にも僕を支えてくれる人が必要なんだ」

 言葉を選びに選んで、僕は鈴音の存在を遠まわしに語った。
 紗枝もそれが分かったみたいで、僕の顔を見上げて言った。

「鈴音さんね。あなたが心から愛しているのは……鈴音さんなのね。結局私は“鮎川吉行の妹”でしかないのね……」

「……」

 紗枝がどういう反応を示すのか、僕にも予測がついていない。
 決定的に傷つけてしまっていない事を願いつつ、嘘をつくのはやめようと思っていた。
 自分に嘘をついて鈴音との関係を終わらせるより、紗枝がこれから歩かなければならない現実を少しでも直視してもらった方がいいと思った。
 それに、鈴音を失った僕が紗枝を満足にフォローしていけるのかどうかというのも、自信がない。
< 218 / 234 >

この作品をシェア

pagetop