抹茶モンブラン
「そんな不安な顔しなくていいよ。本当にただ夜景見るだけだから」

「……何かあったんですか?」

あまりにも彼の様子が余裕のない感じだったから、私はついそんな事を聞いてしまった。
すると、堤さんは自嘲ぎみな笑みを浮かべ、低い声でつぶやいた。

「……君の仕事はデータ処理だけじゃないって知ってた?」

「どういう事ですか」

堤さんの声は鬼気迫るもので、私の不安も頂点に達した。

「乙川さんの仕事内容には、僕を癒す事……ってのも含まれてるんだよね。まあ、これは僕の中だけの注文。名目はデータ処理って事になってるけど、僕には君っていう存在が必要なんだ」

「な……」

私が自暴自棄になった頃とそっくりな雰囲気が彼から感じられた。
彼が本心でこんな事を言い出したのか分からなかったけれど、私の頭にはカッと血が上った。

堤さんが発言した事は、完璧なセクハラだ。
理由はどうあれ、私を「女」で「男を癒す」という道具に見ている。
この人は噂だけじゃなくて、本当に嫌な男なんだ。
多少でも彼を庇う気持ちで接していた自分がバカだった。
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