抹茶モンブラン
「参ったな……こんなに泣かれると思わなかった。さっきのは冗談だよ。まあ、最低な冗談だったかもしれないけど」

 後頭部をボリボリとかいて、彼は困った表情をしている。

「アシスタントに乙川さんをってお願いしたのは事実だよ。でも、……僕の言い方が悪かった」

 彼なりに精一杯さっき車の中で言った言葉を弁解していた。

「何であんな事言ったんですか。私の事癒しの道具みたいに……」

 私はまだ多少恨みがましい事を言った。

 堤さんは頭をくしゃくしゃっとさせて、手にしていたコーヒーを少し飲んだ。

「これって言い訳になるけど……。限界なんだよ……頭も体も。何か、生きてる実感が無いっていうか。このままだと仕事だけで死んで行く気がしてさ」

 そう言った堤さんは、確かに疲労で立っているのもつらそうだった。

「乙川さんって僕の“陰な気分”を封じ込める力があるんだよね……、去年入った頃から何度か姿見かけるだけで気分が晴れた。ある意味、君は僕の特別な存在だ」

 まるっきり嘘でも無さそうな様子で、彼はそう言った。

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