抹茶モンブラン
「んー……乙川さんが僕に触れたくないとか、まだ好きになれてないなら無理は言えないけど」

「いえ、私……随分前から堤さんの事は好きですよ」

 実は海ほたるで8割ぐらい好きになっていた。
 人間の心は時間をかけて落ちるものもあれば、短時間……いや、一瞬にして落ちる場合もあるんだと私は自分でそれを体験してみて分かった。

 私は堤さんが好きだ。
 この気持ちは、誰とも比べたくない。
 前夫と比べて、どっちが好きかとか聞かれても、それは答えようがない。
 でも、前夫よりはるかに不器用な生き方をしている堤さんを見ていると、不思議に愛しさがこみ上げる。

 堤さんは誰にでも優しい訳じゃないし、仕事に関係した事には怖いほどのシビアさを見せる人だ。
 それでも、人間付き合いが下手なせいで随分誤解を受けているのが、ここしばらく付き合って分かってきていた。

「一緒にいるだけでいいって思ってたのに、一緒にいると触れたくなる。触れるとキスがしたくなる。多分キスをしたら……そこから先も知りたくなるような気がする」

「……」

 寝起きのようなボサボサな頭をしてトレーナーを着ている彼は、比較的若く見えて、年の差が3つあるという気がしない。
 職場では近寄りがたい彼も、プライベートで会っていると、ごく普通の愛しい私の彼だ。
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