抹茶モンブラン
 だから、私は別に彼に触れられる事が嫌だとは思っていなくて。
 もしかしてそういう雰囲気になったらっていう覚悟もしながら、彼のアパートに来た。

「近くに座って」
「え?」
「僕の隣に座ってくれない?」

 そんな要求をされて、私は言われるまま彼のいる壁側の席に座った。

「これくらいだと、少しは近く感じますか?」
「うん。だって、この距離だったらキスができる」

 私が何か答える間もなく、ふっと彼の顔が近付いて、頬にキスをされた。
 体がビクッと反応して、右半身に痺れが走る。

「嫌な感じする?」
「……いえ」
「よかった」

 そう言って、彼は私を懐に深く抱き込んだ。
 自分以外の人の温もりが何だかものすごく懐かしく感じられて、心が暖かくなる。
 堤さんの香りに包まれて、すっかり体が緩むのが分かった。

「やっぱり、近付けば近付く程、もっと……もっとって思ってしまうね」

 体を少し離して、彼は私をじっと見つめた。
 黒くて綺麗に輝く瞳。
30歳という年齢で、ここまで澄んだ瞳を持っている大人が他にいるだろうか。
それくらい、彼の瞳は綺麗だった。
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