抹茶モンブラン
「こう……いち……さん?」

 どうしたって、職場で上司として見ている彼を呼び捨てにするのは相当な抵抗感があった。

「鈴音……、鈴音。いい名前だね、誰がつけたの」
「祖母が。祖母が鈴の音みたいに可愛らしく育ちますようにってつけてくれたんです」
「そうか。それで、君はその通り育ったんだ」

 真面目な顔でそんな事を言われて、私はたまらず顔に手を当てて、自分の頬の火照り具合を確かめていた。

 顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
 自分の下の名前をこんなに深く探られたのも初めてだったし、いい名前だねって何度も呼ばれるのも初めてだ。

「このまま眠ってしまいそうになるな、鈴音の声を聞いていたら……眠くなってきた」

 そう言って、彼はソファにゴロンと横になった。
 実際相当疲れているみたいで、彼はすぐにスースーと寝息を立てて本当に寝てしまった。
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