sostenuto【完結】
「いや、その…俺らいつも放課後はグラウンドに居るから、その…なんてーか、毎日ここからピアノの音が聞こえてきてて…」
それは、当たり前だろう。
音は、遠いほど良く響くものだから。
まして、この学校は今年で創立60年。
音楽室の防音なんてあって無いようなもの。
「あ、ごめん。耳障りだったよね。練習の邪魔しちゃったね」
私はここにきて、初めてそこに思い至った。
練習に集中してる彼らにとって、ピアノの音は場違いで、迷惑だっただろう。
けれど、浅生君の反応は、私のそんな気持ちを覆した。
「違うっす!先輩のピアノ、応援されてるみたいだって、いつも部活の皆で話してるんです。誰が弾いてるのかって話になって、それで噂で水瀬先輩がいつも放課後にここでピアノ弾いてるって…」
恥ずかしそうに頬を赤らめる浅生君に、なんとなく心が暖かくなった。
どうやら迷惑ではなかったようだ。