sostenuto【完結】

「ねぇ?優也って呼んでよ、歌音」


先輩、が抜けてるよ!


って思ったけど、いつの間にか詰められた物理的距離に腰が引けて、だけど腕をぐっと引かれて、物理的距離がもっと近づく。


「呼んで?」


至近距離で甘く響く声と、その瞳に魅入られる。


「…ゆう…や…」


気付けばそう口にしていて、優也が嬉しそうに笑うから、また心臓が鳴った。


「良くできました。歌音先輩」


殆ど無意識だったかもしれない。


近づく優也の顔に、自然と目を閉じた。


ふわりと触れた唇。


「やっべ!そろそろ戻らないと先輩にも怒られる!」


今の甘い空気は何だったの?と思いたくなる程に、平静な優也。
恥ずかしいけど、こっちはファーストキス。
この感情をどうしたら良いのかわからない私。


「あー。歌音先輩といちゃつくの、くせになりそ…。とにかく、顧問のとこ行って謝ってくる。だから歌音先輩、俺と一緒に帰ろ?」
「はっ?」

それは、つまり部活が終わるまで待ってろってことデスか?


「えと…なんで?」
「決まってるじゃん。不可抗力だけど悪さをした俺のこと、歌音先輩に慰めて欲しいから」


悪意なんて微塵も感じさせない、あの屈託のない笑顔がそこにあって。


ああ。逆らえない。


そう思った。


だって。


あなたが音楽室に入って来た、あの瞬間から。


私の心はあなたに惹かれてしまっていたのだから。


出会った瞬間の、あり得ないようなあり得る恋の始まり。


水瀬歌音は、浅生優也に


恋をしました。






【完】


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