神のでサンティアゴ
旅が始まる
小説 [神のでサンティアゴ]
ゴク・ゴク・ゴク・と水道水をガブ飲みした。
うまい。
額から塩辛い汗が噴出している。
ラテンの太陽は容赦なく照りつけてくる。
「くそ暑い!」
志真一(こころざし しんいち)54歳はスペイン巡礼をなぜ歩いているのか?
本人にもはっきりとした理由は分からない。
商社に勤務している。
出張が多い仕事で、月の半分は国内外を飛び回っている。
その日は、福岡に出張であった。
金曜日の午後に帰宅予定だったが、一日早く出張は終え木曜日の深夜帰宅した。
自宅は松戸である。
20年前に購入した一軒家で、小さいが庭もある。
その前を通り玄関に入る構造となっていた。
庭からベランダのレースカーテン越しに居間の様子を見えた。
妻(48歳)が居た。えっ、中に男がいる。誰だ!
しばらく様子を覗き見た。
キザな男と妻はワインを楽しそうに飲んでいる。
なんだあれは。
頭の中が真っ白になった。
そのまま旅行会社の方へ歩いていた。海外は慣れている。
いつも出張では時間が取れず。スペイン巡礼をゆっくり歩いて見たいと常々思っていた。
「今からマドリードまで片道取れますか」
「急なご出張でしょうか」
会社で使っている取引先旅行会社である。
「あの~、少しでも早い便でお願いします」
ヨーロッパは硬水である。当たり前のように市販のミネラルウオーターを飲んでいてた。
海外で水道水を直接飲めるなど考えもしなかった。
ところが、ピネレー山脈下の村に住む老人に勧められて、公共水汲み場の蛇口から出る水を飲んでみた。
「山の湧き水は美味しいから飲んでみなさい」
「この水を飲んでも大丈夫なんですか」
商社勤務は危険な事は避けるのが原則である。
「何を言っているんだ安全に決まっているだろう」
公園の水場蛇口に直接口を付けて飲む子供の姿を何度か目にはしていたが、地元の人には飲めても旅行者が飲んで安全とは限らない。
「飲んでみなさい」
そして恐る恐る飲んだのが始まりだった。
確かに水はおいしかった。後で下痢や腹痛はしかいか心配したが、30分経過しても何も起こらなかった。
出張中なら決して取らない行動だった。
真一は胃腸が極めて弱い。
危ない物を口にすると30分で下痢が始まるのだった。
大丈夫だった。
これから2ヶ月900キロの道程を歩こうとしている。場所によってはミネラルウオーターが売っていない場所もあるだろう。そうなると何日か分の水を担いで歩かなければならない事を考えると気が楽になった。
水道水が飲めて、本当に良かった。
歩き初めて10日間が経っていた。
ようやく足も慣れ、1日20キロあるいは30キロと歩けるようになって来ていた。
ここまで何とか肉刺も出来ず。足の具合も順調である。
スペイン語の方は少しは覚える努力をしていた。
1~10までの数字を1日1つづつ口ずさみながら歩ている。
1000回も2000回もウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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翌日はドス(2) ドス(2) ドス(2) ドス(2)と言い続けながら歩き続けるのだから幾ら記憶力が悪い真一でも覚える事が出来た。時間だけは無限にある。
幾らですか? と1~10までの数字は最低限必要なスペイン語である。
「写真を撮らせてください」
真一はこの巡礼を羽織袴(はおりはかま)で歩いていた。
日本的な着物の趣味にはまって3年がたっていた。着付けにもなれ、粋に帯を締める事ができるようになっていた。
色々な国の巡礼者から、1日に10回以上も声が掛かる。
「いいですょ」
笑顔で写真に納まる真一だった。
「私も写真を撮っていいですか」真一
美人とツーショットで写した。
真一のカメラには男性との写真は少ない。
1人写すと周りの巡礼者にも頼まれる。
「どこの国の方ですか」
「日本人です。あなたはどこの国?」
聞き返すと。
「私はポーランドからです。どこから歩き始めましたか」
「ピネレー山脈のフランスとスペインの国境ソンポートから出発しました」
昔のスペイン巡礼は、自宅から歩き始めるしかなかった。歩かなくても馬かロバを使って巡礼に出発しただろう。
しかし現在は交通機関が発達してしまったので、どこから出発しようが自由である。最低100キロ以上巡礼路を歩けばサンティアゴにゴールした時に巡礼証明書が貰えるのだ。
巡礼路は比較的分かりやすい。
道しるべとなるホタテ貝のマークが至る所にある。そのマークさえ見失う事なく歩けば道に迷う事無く、次の巡礼宿に到着できるのだ。
「こんにちは」
「はい、いらしゃいませ。巡礼証を見せて下さい」
巡礼宿に到着すると受付で巡礼証にスタンプを押して貰う。
いわゆるスタンプラリーなのだ。この形となったのは、ほんの20年前の事と聞いた。発案者のアイデアに祝杯だ。
「この宿は、宿泊料は無料です。最後にこの箱に寄付を入れていってください」
「わかりました」
巡礼宿には公共と民間の施設がある。数は少ないが教会が直接経営する無料の宿もある。
「7時から教会でミサがあります。8時から夕食です。9時からは
ゴク・ゴク・ゴク・と水道水をガブ飲みした。
うまい。
額から塩辛い汗が噴出している。
ラテンの太陽は容赦なく照りつけてくる。
「くそ暑い!」
志真一(こころざし しんいち)54歳はスペイン巡礼をなぜ歩いているのか?
本人にもはっきりとした理由は分からない。
商社に勤務している。
出張が多い仕事で、月の半分は国内外を飛び回っている。
その日は、福岡に出張であった。
金曜日の午後に帰宅予定だったが、一日早く出張は終え木曜日の深夜帰宅した。
自宅は松戸である。
20年前に購入した一軒家で、小さいが庭もある。
その前を通り玄関に入る構造となっていた。
庭からベランダのレースカーテン越しに居間の様子を見えた。
妻(48歳)が居た。えっ、中に男がいる。誰だ!
しばらく様子を覗き見た。
キザな男と妻はワインを楽しそうに飲んでいる。
なんだあれは。
頭の中が真っ白になった。
そのまま旅行会社の方へ歩いていた。海外は慣れている。
いつも出張では時間が取れず。スペイン巡礼をゆっくり歩いて見たいと常々思っていた。
「今からマドリードまで片道取れますか」
「急なご出張でしょうか」
会社で使っている取引先旅行会社である。
「あの~、少しでも早い便でお願いします」
ヨーロッパは硬水である。当たり前のように市販のミネラルウオーターを飲んでいてた。
海外で水道水を直接飲めるなど考えもしなかった。
ところが、ピネレー山脈下の村に住む老人に勧められて、公共水汲み場の蛇口から出る水を飲んでみた。
「山の湧き水は美味しいから飲んでみなさい」
「この水を飲んでも大丈夫なんですか」
商社勤務は危険な事は避けるのが原則である。
「何を言っているんだ安全に決まっているだろう」
公園の水場蛇口に直接口を付けて飲む子供の姿を何度か目にはしていたが、地元の人には飲めても旅行者が飲んで安全とは限らない。
「飲んでみなさい」
そして恐る恐る飲んだのが始まりだった。
確かに水はおいしかった。後で下痢や腹痛はしかいか心配したが、30分経過しても何も起こらなかった。
出張中なら決して取らない行動だった。
真一は胃腸が極めて弱い。
危ない物を口にすると30分で下痢が始まるのだった。
大丈夫だった。
これから2ヶ月900キロの道程を歩こうとしている。場所によってはミネラルウオーターが売っていない場所もあるだろう。そうなると何日か分の水を担いで歩かなければならない事を考えると気が楽になった。
水道水が飲めて、本当に良かった。
歩き初めて10日間が経っていた。
ようやく足も慣れ、1日20キロあるいは30キロと歩けるようになって来ていた。
ここまで何とか肉刺も出来ず。足の具合も順調である。
スペイン語の方は少しは覚える努力をしていた。
1~10までの数字を1日1つづつ口ずさみながら歩ている。
1000回も2000回もウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ウノ(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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「写真を撮らせてください」
真一はこの巡礼を羽織袴(はおりはかま)で歩いていた。
日本的な着物の趣味にはまって3年がたっていた。着付けにもなれ、粋に帯を締める事ができるようになっていた。
色々な国の巡礼者から、1日に10回以上も声が掛かる。
「いいですょ」
笑顔で写真に納まる真一だった。
「私も写真を撮っていいですか」真一
美人とツーショットで写した。
真一のカメラには男性との写真は少ない。
1人写すと周りの巡礼者にも頼まれる。
「どこの国の方ですか」
「日本人です。あなたはどこの国?」
聞き返すと。
「私はポーランドからです。どこから歩き始めましたか」
「ピネレー山脈のフランスとスペインの国境ソンポートから出発しました」
昔のスペイン巡礼は、自宅から歩き始めるしかなかった。歩かなくても馬かロバを使って巡礼に出発しただろう。
しかし現在は交通機関が発達してしまったので、どこから出発しようが自由である。最低100キロ以上巡礼路を歩けばサンティアゴにゴールした時に巡礼証明書が貰えるのだ。
巡礼路は比較的分かりやすい。
道しるべとなるホタテ貝のマークが至る所にある。そのマークさえ見失う事なく歩けば道に迷う事無く、次の巡礼宿に到着できるのだ。
「こんにちは」
「はい、いらしゃいませ。巡礼証を見せて下さい」
巡礼宿に到着すると受付で巡礼証にスタンプを押して貰う。
いわゆるスタンプラリーなのだ。この形となったのは、ほんの20年前の事と聞いた。発案者のアイデアに祝杯だ。
「この宿は、宿泊料は無料です。最後にこの箱に寄付を入れていってください」
「わかりました」
巡礼宿には公共と民間の施設がある。数は少ないが教会が直接経営する無料の宿もある。
「7時から教会でミサがあります。8時から夕食です。9時からは