神のでサンティアゴ
先ほど枝を折って杖にして渡してた。若い女性がチェックインして入って来た。
「やあ」
 真一の方が先に声を掛けた。
「先ほどはありがとうございました」英語の会話だ。
「杖はどうでした」
「とても助かりました」
「途中で杖にしたら、とてもよさそうな枝があったので余計なお世話とは思いましたが取ってきました。よかったらそれを捨てて、この新しいのを使うといい」
「本当に貰っていいのですか」
「もし、会えたら渡そうと思い取ってきたのだから遠慮はいならい」
「ありがとうございます」
 若い女性は弾けんばかりの笑みを見せた。
「喜んで貰えてよかった。それじゃまた後で、これから食事に行ってきます」
「ちょっと待ってください。私も行きます」
「シャワーと洗濯が済むまで待っていますよ」
「今すぐ食事に行きましょう」
「汗を流さなくて気持ち悪くありませんか」
「食事が先です」
 ヨーロッパ人は日本人の様に生真面目にシャワー、洗濯と精ををださない。空腹を満たす内面の満足を優先するのだ。
「それでは出かけよう」
 あれれれ・ちょっと違うぞ。若い女性と2人きりで食事ができるとほくそえんでいたのだが、女性と同年代の白人男性が2人一緒だった。
 それはそうだ。甘い話などある訳がない。
 食事の席では打ち解けて話ができた。
 歩いている時は常に先へ先へと進んで行く事で頭が一杯だが、カフェやレストランに着くと、その反動で寛ぎのんびりとしてしまうのだ。
 ワインを飲みながら食事をした。
 若い女性は27歳フランス人、名前はアレックと言うことを知った。
 当然だがアレックにはボーイフレンドがいる事も知った。
 ラテンの考えでは、この場に居ないボーイフレンドなど居ないも同じと言う考え方だ。
 男性の方も名乗ったのだが、聞いたそばから抜けてしまった。
 同姓には興味がない証拠だ。

 また朝が来て、いつものように早起きして歩き始めた。
 腕時計は持っていないので正確な時間は分からない。6時くらいであろう。
 30分も歩くと辺りは明るくなった。
 1時間後には日差しが強くなり始めた頃に。
「おはようございます」
 アレックは杖を器用に使って追いついて来た。若い人は慣れるのが早い。
「おはよう。歩くの早くなりましたね」
「杖のお陰で歩くの楽になりました」
 しばらく2人並んで歩いた。
「アレックはどんな仕事をしているの」
「マッサージ師よ」
「それは重労働だ」
「中々お客がいなくて大変なの、今はオーストリアで仕事をしているの」
「儲かる」
「全く駄目だわ、巡礼に出ればよい仕事に巡り合えないかと思い歩き始めたの」
「じゃ、日本でマッサージの仕事をするといい」
「お客さんいる?」
「フランス人女性のマッサージ師なら、日本なら引っ張りだこだョ」
「私、日本へ行こうかなぁ」
「来るといい。私がどこか良い温泉地を紹介しますよ」
 真一は友人のマッサージ師が登別温泉で仕事をしている事を思い出し、紹介して上げ様と咄嗟にひらめいた。
「お願いします」
 そう言っている間にアレックの歩きが再び遅くなったので、真一は先に歩き始めた。
 1人でのんびり歩くのは気楽である。好きな時に休み、食べたい時に食べ、今日は疲れたと思えば午前中でもさっさと宿にチェックインしてしまえるからだ。

 12時に巡礼宿にチェックインした。早めだが今日はこれでいい。
 シャワーを終え洗濯物を干している時にアレックがまたやって来た。
「あれ、君もここに泊まるの」
 巡礼宿は、この町には3軒も有るのだ。この町に宿泊するにしても選択肢がある中で、偶然にも同じ宿を選んだのだ。
「いけませんか?」
「いや、大歓迎だよ」
「後で、プールに行くんだけれど一緒に行かない」
「プール?」
 ヨーロッパ人はプールに泳ぎに行くというよりも、水着になって日光浴を楽しむのだ。
 アレックの水着姿!、中年の卑猥な想像がよぎった。
「泳ぐと気持ちがいいわょ」
「う~ん。でも泳げないんだ」
「泳がなくても、プールにあるレストランで食事が出来ますよ」
 結局、アレックとプールに出かける事となった。
 しかしプールを探すのに1時間近くも歩き疲れ果ててしまった。
 結局、探しきれずに親切な地元の人の自動車に乗せて貰いプールまで送って貰うしまつだった。


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