神のでサンティアゴ
小娘のケツなど追いかけるからこんな疲れる羽目になるのだ。と後悔した。
中年男の嫌らしさがもろに仇となって返された。
真一は疲れていた。
もうアレックの水着姿など、どうでもよくなった。
「ここで帰るよ」
「プールで泳がないの」
怪訝そうなアレックである。
「泳げないんだ」
「泳がなくたっていいじゃないの、食事もここで出来るんだから」
プールからは10分で歩いて帰れた。
女は方向音痴だから遠回りしていたのだ。
真一は宿に帰り、一人でパンとハムの食事を取った。
いつもどおり翌日も暗いうちから歩き出した。
雲行きが怪しい。
天気予報は雨である。
稲妻が光っていた。
「雨がくるぞ」
誰かが叫ぶ。
すると巡礼者はいっせいに合羽を着始めた。
真一は雨などたいした事はない。傘で十分だろうとタカをくくっていた。。しかし。
10分後雨が降り出した。
ザックの中から合羽を取り出す時間さえ与えはしなかった。スコールが真一の身体を一瞬の間にずぶ濡れ状態にしてしまった。
急激に体温を奪った。
何の役にも立たない傘をさし、ザックを抱え巡礼路にうずくまるのが精一杯だった。
ほんの2~3分の出来事だったが雨との戦いは、苦しかった。
少しだけ弱まった雨の中合羽を着て坂道を登り始めた。
なぜ?ここから登り坂が始まるのだ。神は試練を与えたのか。
自転車巡礼者が一番軽いギャーにして歯を食いしばり登って行く、誰もが苦しいのだ。
斜度12度キツイ、足元を滝の様な流れで泥水が走る。
靴の中までドボドボに濡れている。
すると今朝も雨音よりも強く、杖の音を響かせて、アレックが追いついてきた。
「おはようございます」
「やあ、おはよう」
若いから元気がいい。
真一は挨拶をするのがやっとの状態に朝から疲れ果てていた。体温を奪われてしまったせいだろう。
アレックは直に追い越していった。
雨で先の視界はない。
もうアレックの姿は見えない。
先の見えない頂上を目指してゆっくりゆっくり、重い足取りで登っていった。
そこにアレックが立っていた。
真一に近づき腕を優しくつかんだ。
「もう少しよ。頑張りましょう」
「ありがとう」
今朝はアレックに励まされてしまった。
「一緒に歩きましょう」
アレックのやさしさに励まされて歩き出した。
「頂上は直ぐそこよ」
「うん・・」
足取りは重い。しかし一歩づつ登った。
歩いてさえいれば頂上に辿り着くものである。
「やった。真一は勝利者よ」
「ありがとう。君のお陰だ」
頂上には非難小屋があった。しかし先に辿り着いた巡礼者で雨宿りの場所はなかった。
「私は少し休んで行く」
真一は一瞬考えたが、ここで休んでは確実に風邪をひいてしまう。歩きを止めないほうがいい。
「先に歩いていくよ」
アレックは親切に頂上までサポートしてくれたのに、真一は薄情にも一緒に休んではやれなかった。
頂上からは平坦な道が続いた。
歩くスピードは自然と早くなる。
それでも、後続の巡礼者が次々と追い越して行く、平坦な道は長くは続かなかった。
登った道は降らなければならないのだ。
急な降り道が待っていた。
靴の中に水が入りグチョグチョと音を立てている。足がフヤケテ踏ん張りが利かない。
スペイン人は陽気に歌を歌っている。苦境な時ほど笑顔ではしゃぐのだ。
「グチョ・グチョ・グチョと私の靴は歌ってる」
濡れた靴の中の事まで即興で歌の文句にしてしまっている。
真一は登りよりも遅いスピードで滑らないように慎重に進んだ。
やがて降り道も終わり平坦な、小麦畑脇の道へと巡礼路は変わっていった。
舗装はされていない。土の道である。
雨で粘土を捏ねた状態である。
靴に土がへばり付く、足が重くなる。おまけにツルツル滑る。
アレックが追いついて来た。
若いっていいな。体力の回復も早いのだ。
「真一、大丈夫」
「あぁ、さっきは待っててあげられずゴメンよ」
「いいのよ」
「頂上で止まると風邪をひきそうなので歩いたんだ」
アレックと一緒に歩き始めた。
お互い疲れていた。
しかし真一の方はアレックと歩ける喜びで、少しだけ元気がよかった。
その分、泥靴でも足取りも軽かった。
30分も一緒に歩いたか?
真一は一緒に歩いている積もりでいた。
横に並んで歩いている訳ではないので、気付かなかった。
アレックの姿はそこにはなかった。
どうしたのか?
さっきの登りでの親切を考えると、戻って安否を確かめてやるのが優しさなのだが、そこまで真一には出来なかった。
じっと休んで待っていている事はできる。
すでに体温も平常に戻っていた。
ザックを降ろした。しかし地面は濡れている。
小麦の切り株に少しでも濡れてない場所を探してザックを置いた。
冷えると小便が近い。
先ずは女性が来る前に、大地に向かって排尿した。
アレックはまだ来ない。
オレンジを取り出し半分食べた。
残りの半分はアレックのために残しておいた。
15分くらい待つと重い足取りでアレックは近づいてきた。
「大丈夫・」
「調子が悪いの」
「ごめんよ、さっき私に力を与えるために自分の体力を使い果たしたんだね」
「そんな事はないけれど」
「オレンジを食べると元気がでるよ」
「・・・・・・・」
「食べなよ。ビタミンC補給だ」
一瞬ためらっていたが。
「頂くわ」
甘いチョコレートのように即効性はないが、食べると元気が湧いてくる。
「こんどは本当に一緒に歩こう」
「いいわ」
「さっきはほんとにすまなかった。後ろを気遣う余裕がなかった。今度は注意して歩くよ」
「気にしないで」
延々と続く泥道を歩いた。
相変わらず足は取られて滑る。
どんな悪路でも必ず終わりがやってくる。急に舗装道路となった。
歩きやすい。
そこに東屋があり休憩できる場所があった。
「ここで靴下を交換するわ」
「分かった。じゃあ先に歩いている」
なぜだ真一、一緒に休まない。休んで靴下を交換するのを手伝ってやれないんだ。
濡れている靴を脱ぐだけでも大変なことだろう。
靴を引っ張ってやれ、助けてやれ。
真一は歩き出した。
アレックは真一に甘えたいんだ。それが分からないのか。
2キロも歩いた所に、接待所があった。
無料で巡礼者に暖かいコーヒーとパンを提供してくれる。
そこで、休憩して真一も靴下を替えた。
中年男の嫌らしさがもろに仇となって返された。
真一は疲れていた。
もうアレックの水着姿など、どうでもよくなった。
「ここで帰るよ」
「プールで泳がないの」
怪訝そうなアレックである。
「泳げないんだ」
「泳がなくたっていいじゃないの、食事もここで出来るんだから」
プールからは10分で歩いて帰れた。
女は方向音痴だから遠回りしていたのだ。
真一は宿に帰り、一人でパンとハムの食事を取った。
いつもどおり翌日も暗いうちから歩き出した。
雲行きが怪しい。
天気予報は雨である。
稲妻が光っていた。
「雨がくるぞ」
誰かが叫ぶ。
すると巡礼者はいっせいに合羽を着始めた。
真一は雨などたいした事はない。傘で十分だろうとタカをくくっていた。。しかし。
10分後雨が降り出した。
ザックの中から合羽を取り出す時間さえ与えはしなかった。スコールが真一の身体を一瞬の間にずぶ濡れ状態にしてしまった。
急激に体温を奪った。
何の役にも立たない傘をさし、ザックを抱え巡礼路にうずくまるのが精一杯だった。
ほんの2~3分の出来事だったが雨との戦いは、苦しかった。
少しだけ弱まった雨の中合羽を着て坂道を登り始めた。
なぜ?ここから登り坂が始まるのだ。神は試練を与えたのか。
自転車巡礼者が一番軽いギャーにして歯を食いしばり登って行く、誰もが苦しいのだ。
斜度12度キツイ、足元を滝の様な流れで泥水が走る。
靴の中までドボドボに濡れている。
すると今朝も雨音よりも強く、杖の音を響かせて、アレックが追いついてきた。
「おはようございます」
「やあ、おはよう」
若いから元気がいい。
真一は挨拶をするのがやっとの状態に朝から疲れ果てていた。体温を奪われてしまったせいだろう。
アレックは直に追い越していった。
雨で先の視界はない。
もうアレックの姿は見えない。
先の見えない頂上を目指してゆっくりゆっくり、重い足取りで登っていった。
そこにアレックが立っていた。
真一に近づき腕を優しくつかんだ。
「もう少しよ。頑張りましょう」
「ありがとう」
今朝はアレックに励まされてしまった。
「一緒に歩きましょう」
アレックのやさしさに励まされて歩き出した。
「頂上は直ぐそこよ」
「うん・・」
足取りは重い。しかし一歩づつ登った。
歩いてさえいれば頂上に辿り着くものである。
「やった。真一は勝利者よ」
「ありがとう。君のお陰だ」
頂上には非難小屋があった。しかし先に辿り着いた巡礼者で雨宿りの場所はなかった。
「私は少し休んで行く」
真一は一瞬考えたが、ここで休んでは確実に風邪をひいてしまう。歩きを止めないほうがいい。
「先に歩いていくよ」
アレックは親切に頂上までサポートしてくれたのに、真一は薄情にも一緒に休んではやれなかった。
頂上からは平坦な道が続いた。
歩くスピードは自然と早くなる。
それでも、後続の巡礼者が次々と追い越して行く、平坦な道は長くは続かなかった。
登った道は降らなければならないのだ。
急な降り道が待っていた。
靴の中に水が入りグチョグチョと音を立てている。足がフヤケテ踏ん張りが利かない。
スペイン人は陽気に歌を歌っている。苦境な時ほど笑顔ではしゃぐのだ。
「グチョ・グチョ・グチョと私の靴は歌ってる」
濡れた靴の中の事まで即興で歌の文句にしてしまっている。
真一は登りよりも遅いスピードで滑らないように慎重に進んだ。
やがて降り道も終わり平坦な、小麦畑脇の道へと巡礼路は変わっていった。
舗装はされていない。土の道である。
雨で粘土を捏ねた状態である。
靴に土がへばり付く、足が重くなる。おまけにツルツル滑る。
アレックが追いついて来た。
若いっていいな。体力の回復も早いのだ。
「真一、大丈夫」
「あぁ、さっきは待っててあげられずゴメンよ」
「いいのよ」
「頂上で止まると風邪をひきそうなので歩いたんだ」
アレックと一緒に歩き始めた。
お互い疲れていた。
しかし真一の方はアレックと歩ける喜びで、少しだけ元気がよかった。
その分、泥靴でも足取りも軽かった。
30分も一緒に歩いたか?
真一は一緒に歩いている積もりでいた。
横に並んで歩いている訳ではないので、気付かなかった。
アレックの姿はそこにはなかった。
どうしたのか?
さっきの登りでの親切を考えると、戻って安否を確かめてやるのが優しさなのだが、そこまで真一には出来なかった。
じっと休んで待っていている事はできる。
すでに体温も平常に戻っていた。
ザックを降ろした。しかし地面は濡れている。
小麦の切り株に少しでも濡れてない場所を探してザックを置いた。
冷えると小便が近い。
先ずは女性が来る前に、大地に向かって排尿した。
アレックはまだ来ない。
オレンジを取り出し半分食べた。
残りの半分はアレックのために残しておいた。
15分くらい待つと重い足取りでアレックは近づいてきた。
「大丈夫・」
「調子が悪いの」
「ごめんよ、さっき私に力を与えるために自分の体力を使い果たしたんだね」
「そんな事はないけれど」
「オレンジを食べると元気がでるよ」
「・・・・・・・」
「食べなよ。ビタミンC補給だ」
一瞬ためらっていたが。
「頂くわ」
甘いチョコレートのように即効性はないが、食べると元気が湧いてくる。
「こんどは本当に一緒に歩こう」
「いいわ」
「さっきはほんとにすまなかった。後ろを気遣う余裕がなかった。今度は注意して歩くよ」
「気にしないで」
延々と続く泥道を歩いた。
相変わらず足は取られて滑る。
どんな悪路でも必ず終わりがやってくる。急に舗装道路となった。
歩きやすい。
そこに東屋があり休憩できる場所があった。
「ここで靴下を交換するわ」
「分かった。じゃあ先に歩いている」
なぜだ真一、一緒に休まない。休んで靴下を交換するのを手伝ってやれないんだ。
濡れている靴を脱ぐだけでも大変なことだろう。
靴を引っ張ってやれ、助けてやれ。
真一は歩き出した。
アレックは真一に甘えたいんだ。それが分からないのか。
2キロも歩いた所に、接待所があった。
無料で巡礼者に暖かいコーヒーとパンを提供してくれる。
そこで、休憩して真一も靴下を替えた。