大きな鞄


「あとは……。準備とか……いいの?」

途中でカフェに入り、向かい合わせで座った。
弾む話も思いつかなくて、本当はこんな話なんてしたくもないのに、結局遠慮がちになりながらもその話題になる。

注文した熱い珈琲が、やけに苦く感じた。

「うん。引越屋さんに見積もり出してもらったし、荷物もだいたい片付いた。向こうの部屋も、もう決まってる」

遠慮がちにぼそぼそと呟く僕とは違って、美里の言葉はハキハキとそれこそ弾むような口調だ。

「……そっか……」

僕は、ぼそりとつぶやきまた熱いコーヒーに口をつけ、やっぱり苦いな、なんてぼんやり思っていた。

いつもは美味しいと感じていた珈琲は、今日の僕にはただの黒くて苦い飲物でしかない……。

目の前に座り、ニコニコと美味しそうにコーヒーを飲む美里がとても遠く感じる。


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