理想の男~Magic of Love~
店員の彼女は目をそらすようにうつむくと、カゴの中の商品のレジ打ちをしていた。

うつむいているその顔は、今にも泣きそうな顔をしていたに違いない。

当たり前だ。

彼女は10代のアルバイトで、しかも“実習中”と言う身だ。

グチグチとお客に文句を言われて、つらくない訳がない。

お客の男は彼女が何も言い返さないのをいいことに、
「あのさー、泣けば許してくれると思ってる訳ェ?」

「順番すっ飛ばしておいて謝りもしないなんて、ホント最低」

彼女に文句を言い続けた。

ここで男の彼女が、やめなさいと言って文句を言う彼氏をたしなめたり、店員の彼女に謝るのが正解だろう。

しかしその彼女も、
「何とか言いなさいよ!」

男と一緒になって店員を攻撃したのだった。

「――かわいそう…」

その様子を見た浩治が、ボソッと小さな声で呟いた。

一言呟いた後、彼は特に何もしなかった。
< 22 / 270 >

この作品をシェア

pagetop