理想の男~Magic of Love~
浩治の声でハッと我に返った。

しまった、危うく今の状況を忘れてしまうところだった。

自分に言い聞かせるように言った後、私は首を横に振った。

何を考えていたんだ、私は。

そもそも…何で、藤のことなんか考えていたのだろう?

私は頭の中にいる彼を追い払うと、車を降りた。


リビングでは、父と浩治が楽しく話をしていた。

私は母と一緒にキッチンからその様子を見ていた。

よかった、気に入られたみたいで。

そう思う反面、父に嫌われて欲しかったと思う自分もいた。

「愛莉」

母に呼ばれ、私は食器棚から小さな桜の絵が描かれた白い湯飲みを出した。
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