【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「あの日、心【しずか】ね、
子宮がんの手術してたんだって。
子宮温存する方向で。
それで紀天を無事に出産できたんだけど再発しちゃったって。
しかも……転移までしてるって、ねぇ葵桜秋。
私、心【しずか】に
何をしてあげられる?」
心【しずか】が子宮がん?
しかも再発ですって。
咲空良が教えてくれたショックな出来事は、
私にとっては、利用価値がある大切なもの。
これはチャンスよ。
今よりも深く、怜皇さまの傍に近づいていくのに。
壊れてしまっているこんな風にしか考えられない思考。
何処までも止まらない欲望。
「大丈夫よ。
咲空良には出来ることがあるじゃない。
心【しずか】の支えは、咲空良なのよ。
咲空良は心【しずか】を思って今までと変わらず毎日、
顔を出してあげたらいんじゃない?
怜皇さまのことは全部、私に任せてくれたらいい」
そう……怜皇さまとの出来事に最初から、
咲空良が入り込んでるのがそもそもの間違いなの。
だって怜皇さまが知ってる咲空良は全て私だもの。
最初から私のモノだったのよ。
そんな感情が湧き上がって来て制御できなくなっていく。
「葵桜秋……有難う」
心がそこにあらず状態のまま何時もの癖で告げる承諾の言葉。
その次の日から私の行動はさらにエスカレートしていく。
今の自分が、葵桜秋なのか咲空良なんて
正直どうでもいい。
そんな理性はどうでもいいから、
私を……怜皇さまで満たして欲しい。
葵桜秋として、プロジェクトメンバーの一員として
体の関係を持つ日々。
幾ら、咲空良に理解力を示していても
怜皇さまも男だから……性欲を満たしたい時間はある。
秘書の東堂が付き添う現場も、
そういう時は、怜皇さまに寄って私が呼ばれる。
「近衛、今日の商談に付き合え」
そう紡がれる名前にゾクリと反応する体。
「はい。支度してきます」
作業の手を止めてお辞儀すると座席を立つ間際、
嫉妬染みた視線が次々と私を突き刺していく。
そんなものすら、怜皇さまの『特別』に慣れていると
錯覚させてくれる。
一緒にリムジンで出かけて商談の後はディナー。
そしてそのまま何時ものホテルへ。
そこで……激しく抱く見かけに寄らず逞しい腕。
アナタに全てを壊されたい……。
それほどまでに……盲目にさせる時間。
それでも性欲は満たされてくれない。
その翌日。
仕事が休みの日になると咲空良の姿をして
会社の前で、怜皇さまを待ち伏せする。
葵桜秋としての姿の時は、
私は只の従業員。
だけど咲空良としての姿の時は、
私は瑠璃垣後継者の婚約者。
婚約者の肩書だけで社内の対応が全てかわる。
どれだけ突然、アポなしで現れて
本社前のエントランスに姿を見せても
受付嬢は門前払いをすることなんてない。
すぐに怜皇さまの部下が姿を見せて、
媚びへつらうように、私を持て成してくれる。
そしてそのまま社に戻った怜皇さまに抱き付く。