【B】星のない夜 ~戻らない恋~
30.親友を支えるものとして -怜皇-
心【しずか】さんの子宮がんの治療が本格的に始まった。
睦樹は廣瀬電子工業の次期後継者候補としての仕事を
頑張りながら、病院と自宅と会社の往復を繰り返しているみたいだった。
瑠璃垣の医療分野への進出の一歩として、
他の大手財閥と共同で、ビジネスを立ち上げた。
癌治療の最先端医療になると言われている、
陽子線治療と炭素イオン線治療。
この二つの医療を同時に行える研究施設をようやく軌道に乗せることが出来た。
このビジネスへ一歩踏み出した経緯は、まだ悧羅学院に通っていた頃。
その時の先輩たちと一緒に、何度も話し合い、専門分野の先人たちに意見を聞きながら
ようやく辿り着いた研究施設。
そして研究施設の附属病院となる医療センターが、
来月上旬には開業することが決まっていた。
その医療センターは、協賛企業の医療スタッフが使用することが出来る。
開業前ではあるものの、先の話し合いの際に俺は心【しずか】さんにその施設を使うことが出来ないかを
三杉先輩や、伊舎堂先輩、早谷先輩たちと話し合う。
今回の研究施設のメイン担当となる企業である、伊舎堂と華京院がOKを出したらと心【しずか】さんの入院を
見とめてくれた三杉先輩。
三杉先輩のジュニアでもある睦樹の奥さんと言うことで、先輩は二つ返事で受け入れてくれた。
伊舎堂先輩と実際に研究施設の責任者として動いて貰う華京院先輩と早谷先輩。
三人の先輩方も、心【しずか】さんの受け入れを快く承諾してくれて
その夜、睦樹の元へと報告した。
翌日、予定していた病院とは違う、真新しい医療センターへと心【しずか】さんを連れて
現れた睦樹。
仕事の合間に、僅かでも立ち会いたくて医療センターへと向かう。
「お待ちしていました。
当、医療センターの責任者を務めます、華京院です」
「同じく早谷です。
廣瀬心【ひろせ しずか】さんですね。
事情は瑠璃垣から承っています。
奥に産婦人科の専門医が控えております。
ご案内します」
そう言って、不安そうな表情を見せる心【しずか】さんを
別の部屋へと誘導する。
「杏弥【きょうや】、心【しずか】さんを頼む。
心【しずか】さん、行っておいで。
紀天と待っているから」
睦樹が声をかけて送りだすと、心【しずか】さんは
杏弥に連れられて、奥の部屋へと歩いていった。
「この度は俺の我儘を聞き届けてくださって有難うございます。
妻をお願いします」
そう言って挨拶した睦樹に応えるかのように、
腕の中の紀天も泣き出す。